2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

中野麻美:労働ダンピング ー雇用の多様化の果てに

基本的にはフェミニズムの立場から、最近の雇用に対する規制緩和を批判的に解説したもの。出版年は2006年なので、昨年末より大きな問題となっている「派遣切り」などを、ある意味予見したともいえる内容であり、その先見性、というかまっとうな批判的ま…

海道尊:死因不明社会 Aiが拓く新しい医療

死体にCTやMRIなどによる画像診断をほどこし、死因を特定する助けとする死亡時画像病理診断(Ai、Autopcy imaging)がなぜ必要なのか、「バチスタ」などのシリーズに登場する厚労省の官僚白鳥が、これまたシリーズの登場人物である記者の別宮にインタビュー…

海道尊:ジェネラル・ルージュの凱旋 上・下

舞台の時間設定的には「ナイチンゲールの沈黙」とまったく時と場所を同じくしておこる、救急外来の天才ドクターの収賄に関する内部告発に端を発する顛末を描いたもの。書き出しを読んでびっくりしましたが、本作は「ナイチンゲールの沈黙」と同じ舞台と時間…

海道尊:ナイチンゲールの沈黙 上・下

異常な歌唱能力を持った小児科の女性看護師と、眼球を摘出しなければならなくなった中学生の男の子が、ある犯罪をきっかけにして奇妙な共犯関係を結ぶはなし。「チーム・バチスタの栄光」に引き続き、神経内科の万年講師が主人公の医療ミステリーかと思いき…

海堂尊:チーム・バチスタの栄光 上・下

平均術死率40%の心臓外科手術「バチスタ手術」を成功させ続けてきた天才ドクター率いるチームで、術死が立て続けに発生する。その状況に疑問を持った天才ドクターと病院の院長が、神経内科の万年講師に事態の究明を押しつけるはなし。本書は映画版を先に…

パオロ・マッツァリーノ:日本列島プチ改造論

偽装イタリア人パオロ・マッツァリーノ氏による、時事問題解説集。ネット連載されたコラムを集めたものらしく、計100編の小ネタからなる。パオロ氏は、語り口は柔らかく内容は砕けているように思えるのだけど、実際のところ主張はきわめてまっとう。「反…

久間十義:刑事たちの夏 上・下

家庭は崩壊し離婚直前の中年刑事は、大蔵省の官僚が歌舞伎町で墜落死する事件に特命として配属されるも、ジムで出会ったクラブ勤めの女性のつてで重要参考人を発見した直後、上層部からの指令で事件ではなく自殺で片がついたことを知らされる。ついむかっと…

山下貴光:屋上ミサイル

アメリカの大統領がテロリストとおぼしき集団に拉致監禁され、その様子がテレビで生中継されはじめた直後、主人公である高校二年生の女性は、学校の屋上で不良的容貌の三年生、願掛けのためにしゃべることをやめた三年生、フェンスを乗り越えて微妙なパフォ…

いろいろ考えてしまう

今日は午前中は病院の設計に関わるワーキングの打ち合わせ、午後からぼくの出身の研究室の修士論文発表会を聞く。時間の都合上二人しか聞けなかったけど、どちらも非常に密度高く、きっと自分でも満足出来るできだったと思います。お疲れ様でした。その後埼…

ローレンス・ブロック編:マンハッタン物語

マンハッタンを主題とした、様々な現代の作家による短編を集めたもの。原題の「Manhattan Noir」が示すとおり、基本的にはどれも暗くて渋いはなしばかり。編者で執筆者の一人でもあるローレンス・ブロックが前口上に書いているとおり、この本の前例にはブル…

卒計講評会

前にも書きましたが、建築学科の特徴として、卒業するにあたり卒業設計を行うということがあります。昨日はその発表会で、西沢先生をはじめ錚々たるメンバーが講評陣としてきていただき、一年に一回の、素敵なイベントとあいなりました。ぼくは下働きとして…

ドゥエイン・スィアジンスキー:メアリー・ケイト

空港のロビーで、相手が飲んだ飲み物には毒物が混入されており、自分が持っている解毒剤を使わない限り死んでしまうと脅す女性を中心として、離婚訴訟のための示談に急ぐ男性、仕事の合間に個人的な目的で復讐を行うことを趣味とする殺し屋の繰り広げる、時…

柳広司:虎と月

中島敦の「山月記」を題に取り、虎と変わってしまった李徴の息子が、父が虎となった理由を探す旅のさきに、父が虎となり、またならなかった理由を発見してしまうはなし。柳氏は本書の後書きで、高校生の頃はじめて「山月記」を読んだ時には、漢字ばかりでと…

福岡伸一:できそこないの男たち

人間の男女を決定するのはいかなる要素か、生物学的な記述を学問の世界のドラマとしてつづったドキュメンタリー。森達也氏が繰り返して述べるとおり、ドキュメンタリーは創作の世界に分類されるべきものだと思います。それはいわゆる「事実」をつづったもの…

青木皐:人体常在菌のはなし ー美人は菌でつくられる

人間が生きるためにはどれだけ常在菌の助けを借りているのかを、具体的な数字と不思議なレトリックで楽しく語った一冊。こういう本って、本当に楽しいです。まず面白かったのが、冒頭の男女の親密度と菌の関係を書いた下りで、まず喫茶店に向き合って座った…

津原泰水:たまさか人形堂物語

祖父から転がり込んだ人形の修理店を経営する30代の女性は、人形にマニアックな知識と愛情を持ち、とかくマイペースに生きる青年富永君と、素性が謎に包まれた腕の良い職人の師村さんとともに、壊れたテディベアや持ち主そっくりな人形、チェコの人形遣い…

卒業設計提出前夜

ほかの学科と比べて建築学科がもっとも特殊なところは、卒業するにあたり論文だけでなく卒業設計という、制作作業を選ぶことができるところだと思います。これは、デザイン系の学生が4年間の制作の集大成として取り組むもので、提出間際になるとみんな大学…

ディディエ・スキバン:ポルス・グウェン

ブルターニュ地方出身のジャズピアニスト、ディディエ・スキバンDidier Squibanによる、ピアノソロアルバム。ブルターニュ地方の伝統的な楽曲を、ジャズ的にアレンジしたものを中心に、自作も含めてまとめたもの。こんな音楽家がいたなんて最近までまったく…

奥泉光:神器 軍艦「橿原」殺人事件 上・下

日本人で現在活躍中の作家の中から、もっとも新刊が待ち遠しいひとを3人挙げろと言われれば、迷うことなく奥泉光氏と水村美苗氏の名前が思い浮かびます。さて3人目は誰か。津原泰水氏も素敵だけど柳広司氏の切り裂かんばかりの鋭さはたまらない。最近新作…

研究日誌(承前)

障害者グループホームに泊まったことは何度もあるけれども、施設に数日間にわたって泊まったことは今回が初めてでした。やはり、じっくり見て、少しの間ではあるけれども利用者と同じ時間を過ごすと、ぽろぽろといままで見えていなかったものが見えてくるよ…