山下貴光:屋上ミサイル

アメリカの大統領がテロリストとおぼしき集団に拉致監禁され、その様子がテレビで生中継されはじめた直後、主人公である高校二年生の女性は、学校の屋上で不良的容貌の三年生、願掛けのためにしゃべることをやめた三年生、フェンスを乗り越えて微妙なパフォーマンスを行っている一年生の男子たちに出会う。この四人が、「屋上の平和」を守るため、ストーカー事件や都市伝説的「罰神」事件、主人公の弟の殴打事件などの解決を試みるはなし。

面白かったです。文章はセンテンスが短く軽快、物語もリズム良く、一歩つんのめるように進む展開には思わずのめり込みました。会話文もとても良くて、まあ、書き文字でしかあり得ない表現だよねと思いつつ読んだのだけれど、だからこそ小説は素敵なのです。

伊坂幸太郎氏との類似を指摘するひとも多いだろうけど、別にまったく気になりません。むしろ、伊坂氏との違いが面白かったなあ。どちらの作者も、物語を予定調和的に作り込み、ことばの表現と見せ方で勝負する作風だと思うのですが、その予定調和の世界が、伊坂氏はなにか無機質というか、ぎこちないというか、偽悪的なところがある。最初期の「オーデュポンの祈り」なんて、主人公が知らぬ間にたどり着いた離れ小島で、人間のことばをしゃべるかかしが「殺害」されるはなしだもんね。なにか、一般的な価値観をキャンセルした上で、物語を作り上げたらなにが残るか、そんな実験をされていたように思います。山下氏は、逆に「あたりまえ」の世界に、みずからの物語でほころびを与え、そのほころびを押し広げてゆく、そんな作劇法なのではと感じました。

でもやっぱり主人公たちが、他人をまったく気にしない人たちであるという設定が良かったなあ。のびやかで気持ちの良い小説でした。

屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)

屋上ミサイル (このミス大賞受賞作)