青木皐:人体常在菌のはなし ー美人は菌でつくられる

人間が生きるためにはどれだけ常在菌の助けを借りているのかを、具体的な数字と不思議なレトリックで楽しく語った一冊。こういう本って、本当に楽しいです。

まず面白かったのが、冒頭の男女の親密度と菌の関係を書いた下りで、まず喫茶店に向き合って座った二人は鼻からブドウ球菌を交換し、握手をしてもやはりブドウ球菌が交わされる。親密度が上がり抱擁、口づけとすすむと表皮ブドウ球菌アクネ菌、さらには口腔常在菌であるミュータンス菌が交換される。そして二人が結ばれると性器の常在菌が交換され、同じ部屋で住むようになると腸内細菌の交換が完成し、二人は「他人」ではなくなるのだ。

まあ、こんな知識はすぐ忘れてしまうと思うのだけれど、やっぱり世の中を違った視点で眺めるって、とても面白い。例えば、著者は便秘で悩んでいる人に、以下のお説教をする。
「便秘の人は、仕事や子育てが忙しいという理由もあるだろう。しかし、厳しいことをいわせていただければ、「とにかく出す」という真剣さが足りないはずだ。」
「とにかく出す」という真剣さですか。いいですねえ。

文章も内容もとても楽しいのだけれど、このように自分の専門を楽しく突き詰める態度に、とても共感を覚えました。突然16世紀フランスの作家ブラントームの「艶婦伝」が引用されるのだけれど、参考文献をみると原書なんだよね。常在菌の研究をしていてどうしてこのような本を読むにいたったのか、とても興味があります。

人体常在菌のはなし ―美人は菌でつくられる (集英社新書)

人体常在菌のはなし ―美人は菌でつくられる (集英社新書)