津原泰水:たまさか人形堂物語

祖父から転がり込んだ人形の修理店を経営する30代の女性は、人形にマニアックな知識と愛情を持ち、とかくマイペースに生きる青年富永君と、素性が謎に包まれた腕の良い職人の師村さんとともに、壊れたテディベアや持ち主そっくりな人形、チェコ人形遣いなどに微妙に潜められた謎に頭を悩ますことになる。

津原氏の作品にしては、ずいぶんとストレートなというか、わかりやすいはなしで驚いた。一方で言葉の重ね方の美しさはさすがでありまして、会話文の切れの良さ、地の文章もリズム良く、眺めているだけで楽しい文章もあるものだなあと、相変わらず感じさせられました。

物語は中編六本からなり、掲載紙(「Beth」という雑誌だそうです)の性格のせいか、いくぶん一本道というか、読者の期待を裏切らない、少し面倒見の良すぎるきらいがあり、すこし物足りないなあと思いながら読み進めていたのですが、三つ目の物語「村上迷想」あたりからテンションがぐっとあがって良かったです。特にこの「村上迷想」は、たまさか人形堂の蘆屋家出張版とでもいうべきもので、なにか非現実的な雰囲気がただよう重苦しい雰囲気の中で、物語自体はおもわぬ展開を遂げ続ける、そんな居心地が悪くも切れ味の鋭い、とても素敵な一編でした。

たまさか人形堂物語

たまさか人形堂物語