海道尊:ナイチンゲールの沈黙 上・下

異常な歌唱能力を持った小児科の女性看護師と、眼球を摘出しなければならなくなった中学生の男の子が、ある犯罪をきっかけにして奇妙な共犯関係を結ぶはなし。

チーム・バチスタの栄光」に引き続き、神経内科の万年講師が主人公の医療ミステリーかと思いきや、犯罪と犯人は早々と読者に開陳されてしまい、ちょっとびっくりしてしまいました。これが「バチスタ」的に医学ジャーゴンとともに気持ちよくときほぐされるのかと思ったら、物語はむしろ幻想的な展開を見せ、なんだか歯ごたえがない。論理の怪物たる厚労省の白鳥さんも、あまりその論理の威力を発揮できない舞台設定に、どうも最後までしっくりきませんでした。

途中まで読んで思ったのは、おそらく作者は非常にメランコリックで幻想的な、まさに音楽の世界が医学の世界と混じり合う瞬間が描きたかったのではないか、ということです。ところが、僕の感覚だと海道氏の文章の良さは、医学用語が羅列されることからもわかるように、極めて散文的で、その単語自体とリズム良い並べ方にある。残念ながら、言葉自体をときほぐし、あらぬ世界を見せるような描写は、あんまり向いていないような気がするのです。

登場人物の造形もなんだか単調で、「バチスタ」の斬新さはどこにいってしまったのかなあ、と思いながら読み終えました。この感想が、次の「ジェネラル・ルージュの凱旋」を読んですっかり覆されることになるとは、思いもしませんでしたが。

ナイチンゲールの沈黙(上) (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)

ナイチンゲールの沈黙(上) (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)

ナイチンゲールの沈黙(下) (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)

ナイチンゲールの沈黙(下) (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)