海堂尊:チーム・バチスタの栄光 上・下
平均術死率40%の心臓外科手術「バチスタ手術」を成功させ続けてきた天才ドクター率いるチームで、術死が立て続けに発生する。その状況に疑問を持った天才ドクターと病院の院長が、神経内科の万年講師に事態の究明を押しつけるはなし。
本書は映画版を先に見てしまったため、犯人もストーリーも分かってしまい原作は未読のままでした。でもやっぱり気になるので、シリーズ三作目の「螺鈿迷宮」を読んだらこれがつまらない。おかしいなあと思ってシリーズ一作目の本書を読んでみたら、とても面白かったので驚きました。
この小説がどんなに面白いか、おそらくいろいろなところで語り尽くされていると思うので、それはそれとして僕として面白かったところをいくつか。まず、主人公の院内の根城である「不定愁訴外来」の位置に関して、設計ミスが見過ごされ内部からはたどりつけない構造になってしまったとあるが、これはおかしい。位置として袋小路の突き当たりにあるならば、おそらく避難用の出口があるはずで、その廊下を部屋としてしまっては二方向避難も避難経路の重複も成り立たない。設計ミスが「見過ごされ」とありますが、病院は国庫補助対象事業なので、竣工検査が終了し検査済証が発行されないと事業が開始できません。それくらい、間違いなく基本設計時に気がつきます。設定としては、竣工後勝手にパーティションを立ててしまったくらいがよかったのではないかな。
あと小説とは関係ありませんが、映画版では見せ場には竣工直後の埼玉医科大学総合医療センターが使われていました。この病院、見た目は派手に見えるのだけれど(黒崎教授がメディアの取材に応じるホールなど特に)、実際見学にいってみたところ、あまりに質実剛健な建物でびっくりしました。例えば画像診断部の操作室は、普通は二重床にしてケーブルをとりまわすのに、基本的にスラブは下げずピットで配線をしていました。これは、実施設計時にそうとう設備の検討を進めていないとできないよなあ。手術場も極めてシンプルで、機材や材料の搬入はおそらくすべてカートで、壁面からの出し入れは一切無し。これはコストも抑えられるだろうし、衛生管理もしやすいだろうと思いました。とにかく無駄が無く、その無駄の無さを生み出す設計と施工の技術の高さ、そしてそれを要求する病院側のコンセプトの明解さに、本当に感銘を受けました。一方で映画だと、手術の場面での手術場はいわゆる普通のごちゃごちゃした手術場で、なんだか不思議な感じがしたのを思い出します。
そういえば小説の方も、田口先生は男性だし、厚労省の白鳥さんは阿部寛でないし、なんだかちょっとずつ映画と違って面白かったです。
チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)
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