ローレンス・ブロック編:マンハッタン物語

マンハッタンを主題とした、様々な現代の作家による短編を集めたもの。原題の「Manhattan Noir」が示すとおり、基本的にはどれも暗くて渋いはなしばかり。

編者で執筆者の一人でもあるローレンス・ブロックが前口上に書いているとおり、この本の前例にはブルックリンを主題とした「ブルックリン・ノワール」という、同じ形式の短編集があったとのことで、その商業的な売り上げに気をよくした出版社が、こんどはマンハッタンで二匹目の泥鰌を狙い、編者にブロックを選び企画したものが本書で、当然「ブルックリン・ノワール」なんて聞いたことも無いけれど、とても切れ味鋭い素敵な短編集です。

まあなんといっても執筆陣が豪華で、ブロックをはじめとしてジェフリー・ディーバー、トマス・クック、S. J.ローザンなど、切れの良い作家たちばかり。といっても他の作者は全然知らない人だったのだけれど、「善きサマリア人」のチャールズ・アルダイって人はとても面白かったなあ。こんど長編も読んでみなくては。リズ・マルティネスの「フレディ・プリンスはあたしの守護天使」は、これはノワールではなくてブラックユーモアだとしか思えないけど、他のおはなしとはまた違った味わいがあって良かったです。ジャスティン・スコットの「ニューヨークで一番美しいアパートメント」も、よくこの長さにここまでアイディアを詰め込めるものだと思わずにはいられません。

でも、やっぱりローレンス・ブロックが一番でした。この人の作品では、殺し屋ケリーのような殺伐としたものよりも、泥棒シリーズの乾いた笑いの雰囲気が好きなのですが、本短編集に収録されている「住むにはいいところ」は極めて殺伐としております。でもまあ、やっぱりその中にも、ブロックらしい舞台と登場人物のリズム良く軽快な構成があって、とても楽しめました。