ドゥエイン・スィアジンスキー:メアリー・ケイト

空港のロビーで、相手が飲んだ飲み物には毒物が混入されており、自分が持っている解毒剤を使わない限り死んでしまうと脅す女性を中心として、離婚訴訟のための示談に急ぐ男性、仕事の合間に個人的な目的で復讐を行うことを趣味とする殺し屋の繰り広げる、時間制限付き遁走劇。なんだかものすごい。

背表紙の解説からしてよく意味がわからないのだが、その意味のわから無さが本作の重要なアイディアと密接に関連するのでしかたがない。とにかく、趣味の良くない表紙と言い、帯のぱっとしない煽りの文句と言い、まったく面白さを感じさせる要素が伝わってこない本にもかかわらず、最近読んだ翻訳物ミステリーの中では群を抜く面白さでした。

とにかく着想というか、物語に埋め込まれたおおきな仕掛けが非常に馬鹿馬鹿しくて素敵なのだが、それ以上に作者の作劇法が素晴らしいのです。物語の制約上、凝縮された時間の中で繰り返されるカットバックは、このままでは物語が収束しないのではないかとの危惧を読者に抱かせるのだけれど、それをまったく不合理で強引な手法によってまとめ上げてしまう作者の腕力には脱帽です。文春文庫って、たまにこのような本当にマニアックというか、極めてクオリティが高いのだけれども最初から最後まで何かがおかしい小説を出版しますねえ。誰が見つけてくるんだろうか。

メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)

メアリー‐ケイト (ハヤカワ・ミステリ文庫)