海道尊:死因不明社会 Aiが拓く新しい医療

死体にCTやMRIなどによる画像診断をほどこし、死因を特定する助けとする死亡時画像病理診断(Ai、Autopcy imaging)がなぜ必要なのか、「バチスタ」などのシリーズに登場する厚労省の官僚白鳥が、これまたシリーズの登場人物である記者の別宮にインタビューを受けるという形式で説いたもの。なぜ海道氏がAiにここまでこだわりを持つのか、やっぱり気になったので、購入しまいました。なんだか悔しい。

内容の方なのですが、Aiの必要性や日本の解剖の現状など、本書の主題となる事柄の前に、非常に気になる点がある。それは厚労省官僚の白鳥が、ダイアローグの形式で厚労省や行政システムをこき下ろすという、本書の主たる語りの構造です。なんというか、厚労省を批判したいのであればそのように書けば良いでは無いのでしょうか。このような、自分たちの内輪話として悪い点をあげつらうという形式は、なんだかとっても不公平だし、そもそも品が悪い。この形式を選択したという時点で、本書の内容に対する信用性はがた落ちしてしまいました。

ともあれ内容をみると、日本の解剖率の低さ、死因の判定率の悪さ、Aiの有効性など、非常に頷ける部分は多くありました。しかし、議論がAiの有用性とその普及を促進させない行政にあるという、ミクロな視点にとどまるのは理解ができません。医療行政、または医療システムの中で、必要であり効果的であるものの、費用などの面から実現出来ないことは、それこそ山のようにあるはずです。そのなかで、Aiをどのように位置づけ、バランスしながら効果的に普及させるかという、マクロな視点も必要だし、そうでないとシステムは語ることはできません。

あとね、行政を徹底的にこき下ろすのは、どうかと思います。行政官は基本的にはシステムを運用する仕事なのであって、本質的に考えればシステムのあり方は政治的な課題のはずです。結局議論は天下り批判になってしまい、ここで著者が展開したかったはずの議論とは距離が生じているように思います。また、Aiの有効性の議論も、なにか腑に落ちないものがありました。いろいろ素晴らしいのは分かるのだけれど、著者が本当に伝えたいのはそこなのだろうか。なにか、著者が本当に考えていることがことばに変換されていない、そんな微妙な違和感を最後まで感じました。

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)

死因不明社会―Aiが拓く新しい医療 (ブルーバックス)