中野麻美:労働ダンピング ー雇用の多様化の果てに

基本的にはフェミニズムの立場から、最近の雇用に対する規制緩和を批判的に解説したもの。

出版年は2006年なので、昨年末より大きな問題となっている「派遣切り」などを、ある意味予見したともいえる内容であり、その先見性、というかまっとうな批判的まなざしは、極めて鋭く説得力がある。いわゆる「非正規雇用」が、労働者の自律的で主体的に働くことのできるしくみではく、雇用主の事業環境にあわせ調整弁になりはてていることなど、最近は言われ尽くした感もあることではあるが、2年も前から指摘していた人がいたということは、ある意味驚きである。

情報として有益だったのは、オランダや北欧諸国の労働に関するシステムの簡潔な説明である。特にオランダの就労環境に関する考え方にはうなずかされた。筆者は「労働時間差差別」と呼ぶが、つまり長時間職場にいる人ほど有能で雇用主に対する忠誠心が高い、との考え方が、同じ労働に対する賃金格差、ひいては労働差別を生むのだという主張は、実感として納得できる。それ以外にも、男女雇用機会均等法は、女性の労働環境の向上だけでなく、男性の劣悪な労働環境を是正する狙いもあったなど、気づかされる点が多い。

しかし、本書はなにか、読みやすさの点で大きな問題があるような気がします。同じ議論が繰り返されているような気もするし、節の立て方もよく理解できない。全体としてどのような筋立てで何を議論したいのか、文章や言葉遣いは平易なのに、なぜかわかりにくい。内容は説得力があるだけに、なんだかとても残念です。

労働ダンピング―雇用の多様化の果てに (岩波新書)

労働ダンピング―雇用の多様化の果てに (岩波新書)