清野賀子:至るところで 心を集めよ 立っていよ
- 作者: 清野賀子
- 出版社/メーカー: オシリス
- 発売日: 2009/09/20
- メディア: 単行本
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それらの写真は、どれもありふれたまちなかの写真なのだけれど、なにか静かで不穏な落ち着きが感じられます。風景写真にはまったく人が写っていないし、木々には緑が見られない。花の写真かと思えば寒椿、そうか、これは冬のまちの写真かと、二度目くらいにようやく思いがいたりました。ぼくは写真はあまり詳しくないのだけれど、清野氏の写真にはけれん味が感じられない良さがあります。それらの写真は、まったくロマンティックでもダイナミックでもないのですが、ぼくは清野氏は「あーっ」っと思いながらシャッターを切っていた気がします。こんな素敵な風景があるんだ、こんな素敵に世界はありえるのだ、そんな思いが、氏の写真からは伝わってくる。
そういってもなんのことやら、とは思いますので、巻末の氏のたった4段落からなる随筆の、真ん中の二段落を引用させていただきます。
「今はすべての焦点は結ばない時代がきている。寸断化されバラバラなものになっていて、それがいっそう強くなっている。誰にとっても、現在は拡散していくものになっている。写真が結ぶ像の中に一体なにがあるのか。写真は記憶、歴史、物語、情緒、といったものだけを提示するメディアではないと思うし、そういう写真は好きではない。
もう「希望」を消費するだけの写真は成立しない。細い通路を見出して行く作業。写真の意味があるとすれば、「通路」みたいなものを作ることができたときだ。「通路」のようなものが開かれ、その先にあるものは見る人がきめる。あるいは、閉じているのではなく、開かれているということ、ある種のすがすがしさのようなものがあるといいなと思う。」
その次の頁の作者の経歴をみて、絶句してしまいました。「清野賀子(1962-2009)」とあるということは、今年お亡くなりになったとしか考えられません。なんということか…しかし、少なくとも、ぼくには何かが開けました。本書に出会えて、本当によかった。