穂村弘:本当はちがうんだ日記

本当はちがうんだ日記 (集英社文庫)

本当はちがうんだ日記 (集英社文庫)

サラリーマンにして歌人の穂村氏が、日常のさまざまなことどもに関する違和感を描いたエッセイ集。

なにが素晴らしいかって、本書でとりあげられることどもの、意見を差し挟むことが不道徳であると思われてしまうくらいのどうでもよさなのです。穂村氏は言う。なぜエスプレッソは苦いのか。深夜にハチミツパンを食べることは難しい。年末の大掃除で職場の冷蔵庫から出てきた緑のコーヒーゼリーを五万円なら食べるという君はなにものか。将来なにになりたいって、いまもう将来だよ。ケーキと帽子が好きな人に、どちらかを選べと言ったらどうするか。

これらの問い、または自分への問いかけは、しかしながら微妙なひっかかりを感じさせます。穂村氏という、おそらく宇宙のどこかしらから地球を訪れてしまった人が、この世界に何らかの違和感を持つ。その違和感が、恥ずかしいまでにあからさまに述べられる。

本書のおそらく一番の魅力は、その違和感の持つ痛々しさ、孤独さ、寂しさにあるように思えます。このような感じを、極めて作為的、演技的に語った人に中島らも氏があると思うのですが、穂村氏は、この違和感を極めて日常的なことばで語るのです。これは、ある種の勇気であり、ある種の諦念であり、ある種の力強さであります。この、いろいろな思いが混ざり合った不思議な居心地の悪さは、世界に対して据わりの悪い思いを持つ人々にとって、とってもおおきな応援というか、やさしいまなざしを与えてくれていると思う。本書は、必要のない人にはまったく必要ありません。でも、本書で救われる人は、とっても多いのではないかと思う。そこまで、この情けない穂村氏を持ち上げる気も無いのですが。

でも、一番いいなあと思ったのは、本書の表紙であります。この、力の抜けきったデザインは、何よりも力強く、本書の内容を物語っているように思えるのです。