山本弘:神は沈黙せず 上・下

神は沈黙せず(上) (角川文庫)

神は沈黙せず(上) (角川文庫)

神は沈黙せず(下) (角川文庫)

神は沈黙せず(下) (角川文庫)

幼い頃に両親を水害という「天災」で失った主人公の女性は、その後フリーランスのライターとしてUFOカルト集団への潜入取材などで生計をたてるようになる。一方彼女の兄は、天賦の才を与えられたプログラマーに成長し、人工生命のシュミレーションを基本とするゲームを次々と開発するのだが、この二人の職業上の特技が、超常現象の理解という一点において思わぬ融合を起こし、怪異現象と世界の成り立ちを説明してしまうはなし。

物語の粗筋に触れることは極めて本書の興をそぐことになってしまうため、なんとも感想を書き留めづらいのですが、とりあえずとても面白かったです。内容的には、えんえん超常現象の記述や分類などが続き、京極夏彦のオカルトバージョンか!とつっこみたくなってしまう瞬間もありましたが、それ以上に世界の存在の軸を、こんな方法で、こんな切り口で揺さぶることができるのかという驚きがありました。

山本氏といえば、僕には作家と言うよりは「と学会」の会長というイメージ、つまり何をやっているのかわからない人という感覚があったのですが(だからいままであまり読まなかった)、この方は、もしかしたら現在日本で最先端を突っ走るSF作家かも知れないと思わされました。本書の隅々にまで染み渡ったオカルト趣味は、はじめはとても扱いづらいというか、どう受け取ったものやらという感じがしたのですが、山本氏の視点には、さすがに単なる趣味人ではなく、壮大な法螺話から世界を揺るがすという、まさに物語る人という力強さがあり、最終的にまったく気になりません。

あと、やっぱり面白いなあと思わされたのは、本書のタイトルです。これは、遠藤周作の「沈黙」に対する、ある種のパロディーであり、また「沈黙」に対する、極めて現代的な返歌のように思えます。なんだか、いろいろ考えさせられて楽しかったです。