大倉崇裕:福家警部補の再訪
- 作者: 大倉崇裕
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/05/22
- メディア: 単行本
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若い人々は知らないかもしれませんが、これは「刑事コロンボ」の形式をとる物語です。すなわち、物語の冒頭で犯人はさまざまなしかけを用いて殺人を行い、完全犯罪の成立を狙います。そしておもむろに現れた刑事(ここでは福家警部補)は、一切自分の内面を語ることなく犯人を追い詰めてゆきます。物語は、むしろ犯人の内面、とくに追い詰められ、いらいらしながら、自信が揺らぎ始める描写を中心に進められ、最後に必ず訪れる犯罪の露見とある種のカタストロフが、基本的には嫌味な物語構成を浄化すると言えます。
この「再訪」は、前作「福家警部補の挨拶」の続編にあたるのですが、ぼくは「挨拶」がとても気に入らなかったようで、極めてそっけない感想を書いてしまっています。でも、本作はとても楽しめた。それはなによりも、福家警部補のとても魅力的な造形によるもののような気がします。とにかく刑事には見えない外見にもかかわらず、徹夜続きのハードワーカー、なおかつ浅草の演芸場での漫才や、テレビのヒーロー物などに、異常なまでの知識と偏愛を持つ。この極めて偏った人物の造形は、やはり大倉崇裕氏ならではの物語の登場人物と感じられ、とても楽しめました。物語自体も、殺人事件の構成自体よりは、それぞれの犯人たちがなぜ殺人を起こすに至ったのか、また殺される犯人たちはどのような人間だったのかという点が、大倉氏ならではのマニアックな視点から存分に掘り下げられ、読み応えあるものでした。