マイクル・Z・リューイン「表と裏」

表と裏 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

表と裏 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

作家のウィリーはタフガイ探偵ハンクが登場するハードボイルドシリーズを執筆中に親友が殺されるという事件に遭遇、小説の進行具合の不調の憂さ晴らしを行うかのようにその事件に首をつっこみ、警察に迷惑がられその愚痴を書いている小説の中でこぼしてしまうような話。

奇妙な話で、親友の殺人事件は主人公の思惑とは全く別のところに収束し、作中小説もはちゃめちゃに展開して行き錯乱的に終結する。主人公の小説家は、いまいち理解に苦しむ動機で友人の殺害事件に深入りし、その中で人々の隠れた性質がちょっとだけ明らかになったりする。物語としては構成が破綻しているような気もし、ああ、それはこれを推理小説として読むからだなあと思いなんとなく単に小説として思い返してみたりもするのだが、この作業自体がなんだか虚しいものであって、小説だろうが「推理」小説だろうが構成が破綻しているのならばやはり破綻しているのである。その破綻具合が面白いと言えば面白く、中でも主人公の現実世界での愚痴や憂さが、作中小説の台詞や地の文に突然流れ出してしまう瞬間は大いなる脱力感に襲われてしまったくらいに秀逸な雰囲気を漂わすのだが、おかげで全般的に感じられる本作自体の脱力感も強まっている気がする。でも、次の台詞に困った作家が、原稿用紙に¥マークで家と気と犬の絵を描いてしまうところなんかとても良い。なんだか構成もちぐはぐで、作者の気分転化に手慰みで書かれたのではとも思われるが、それなりに作品としてはシュールで面白かった。