北山猛邦:密室から黒猫を取り出す方法

無根拠に楽観的な推理小説作家と、彼の家に居候しているひきこもり探偵が、密室に入り込んで消えた黒猫の行方や人を食べるテレビの謎、夕方の音楽室で起きた強盗殺人事件やニート兄弟の父親殺人未遂、そして蝋燭によって封じられた部屋での自殺と思われた事件を解決するはなし。

なんといっても、片山若子氏の装画とイラストがすばらしい。これだけでも、まちがいなく手に取ってしまいます。最近片山若子氏といえば、再版された星新一氏の短編集の表紙とイラストのイメージが鮮烈ですが、そのイメージが強すぎるためか、なぜか北山氏の文章を読んでいても、星新一氏の文章を読んでいるような気さえする。

しかし、主人公の探偵と助手の小説家の性格は、このイラストなしには成立しないのではないかなあ。表紙も素晴らしいけれど、それぞれの物語の扉のイラストが、これがまた良いんだ。輪郭のぼやけた、いったい線画なのか面で縫っているのかわからない、しかも平面的なようでいて奥行き感を感じさせる、そんな不思議な構成の中に、モノトーンで構成された人物たちが、これがまた黒白はっきりしないなかにのびのびと描かれています。これだけで、物語の世界にすっかりひきこまれてしまう。

物語自体はというと、相変わらず北山氏らしく無理矢理感のある物理的なトリックの連続で、これまたなんともいえない安心感があります。犯人なんて予想がつかないし、予想する必要もない展開なので、とても素直に読み切れる。以前の作品のような、不必要な硬さもすっかり無くなり、なまぬるい雰囲気に理不尽な解決が待ち受けるという、ある意味不条理な世界がとても楽しめました。おそらく、作者もこのような作風には自覚的なのではないのかな。刑事コロンボよろしく、犯人の視点で物語が進む「停電から夜明けまで」では、そのあまりにずさんな犯行計画が探偵たちに失笑を買うわけですが、なんだかこれはメタ的に作家自身の方法論を自分で笑い飛ばしているような気もして爽快です。しかし、若竹氏の装画の小説は、なにか似た雰囲気を感じます。もしかして、若竹氏がイラストを描きたい作家を選んで出版社に指名しているのではなかろうか。