斎藤美奈子「あほらし屋の鐘が鳴る」
- 作者: 斎藤美奈子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/03/10
- メディア: 文庫
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ちょっと書店で眺めていたら、最初のはなしが「あの日に帰りたい」と題した「テロリストのパラソル」がおじさんに受けた理由から「ハードボイルド」小説を笑い飛ばす内容なのだが、その議論が「ハードボイルド小説はおじさん版ハーレクインロマンスである」という結論に至ったことに深く共感し即購入、抱腹絶倒の快著でした。一番笑ったのがバス釣りに群がる人々の性癖を釣り専門誌から分析した(あげつらった)ものなのだが、これが最高。「この人たちは、なぜか異常に横文字が好きなのです。バス釣りの専門誌を読みはじめると、私はおもしろくてやめられません。たとえば、「初夏から真夏に季節が変わるころ、バスは湖の深場に集まってくる」という文章があると仮定しましょう。これをバサー流に翻訳すると、「アーリーサマーからミッドサマーにシーズンがシフトするころ、バスはレイクのディープエリアにラッシュしてくる」と、こうなります。(中略)バサーのナイスなセンスがアンダースタンドできましたでしょうか。」その後さらに悪のりし、「ですが、いつのころから、釣り人、ではなくアングラーがホームウォーターにこれをガンガン放流したので、琵琶湖、河口湖などのベリーフェイマスなレイクはもちろんいまやオールジャパンのレイクやポンドやリバーがバスのラッシュになってしまいました。」こんな調子が続く。とにかく、当然のように行われている本当は馬鹿馬鹿しいことやおかしいこと、不条理なことを、極めて巧妙な立ち位置を設定することで笑い飛ばすという、これは一種の芸だなあと思わせもする見事なエッセイ集で、全編とっても楽しめた。おそらく立場としては基本的にはフェミニズムの思想を深く理解し実践する人なんだろうけれど、自らの立場をはっきりと規定しないところがまた巧妙というか、上手いと感じるところで、ある種のレッテルを貼られることを恐れているのだとも思ったのだが、読み進むうちに、それが当然なのだ、当たり前なのだというメッセージにも思えてきて痛快でした。「失楽園」の解説や「戦争論」の解説も素晴らしい。女性誌は全然知らないのでよく分からなかった