ジェフリー・ディーバー「悪魔の涙」

悪魔の涙 (文春文庫)

悪魔の涙 (文春文庫)

ワシントンで大晦日に銃乱射事件が起きた直後に市長宛に多少頭の悪そうな脅迫文が届き、その筆跡から犯人を特定することを依頼された子煩悩の元FBI職員が大変迷惑な思いをしながら頑張るはなし。

よくよく考えると設定に無理があり、ここまで筆跡鑑定職の元職員を持ち上げるのかなあと思うが、まあこれも物語の設定なので良しとします。相変わらずディーバーらしく、極めて早く細かい展開と緻密に組み上げられたプロットが、ページをめくる手を止めることなくむしろ加速させ、一気に最後まで読み通させる良作でした。しかし、真ん中くらいまで読むと、その物語の起伏があまりにも作為的に作られすぎていることがなんとなく気になってくる。ちょっと強引なんだよなあ。まあ、面白いからよいのだけれど。しかしやっぱり展開の妙はさすがと言うべきで、物語の終盤にあらわになる犯人の素性には驚いた。しかし、またここで考えてしまう。これはあまりにも不自然だ。。こんな状況が成立するわけがない。と思わせてしまうところが本作の欠点と言えなくもないが、でも面白いからいいや。でも、これから物語は勢いよく終わるはずなのに、このページ数の残り具合はなに?と思ったらやはりもう一波乱。これは予測出来てしまいあまりびっくりしない。そろそろ、ディーバーの作劇法も型にはまりつつある気がしてきてしまう。びっくりさせるために、設定をひっくり返していくんだよねえ。しかも、訪れる危機には必ず対処出来てしまうので、なんだか水戸黄門的で興醒めでもある。でも、基本的には面白かったのですよ。