マイクル・Z・リューイン「消えた女」

再開発のためにオフィスの立ち退きを迫られている私立探偵アーサーの前に現れた美貌の女性は依頼人ではなく募金のお願いで、その後に来たぱっとしない女性は大学卒業後音信不通になった友人の調査を依頼する。その後の調査と不可解なやりとりの後依頼人は依頼を取り下げるのだが、おさまりのつかないアーサーは調査を続行し、死体が発見され、依頼人は失踪し、保安官は錯乱し、弁護士は体調を崩し、弁護士の秘書は異常な行動を見せる。

相変わらず地味で淡々としたお話なのだが、これまた面白い。いまやマイクル・Z・リューインの作品はほぼ間違いなく傑作であると確信出来たので、どの作品も安心して手に取り読むことが出来るのだが、その期待を裏切らないところがまた物凄い。本作は上記の通りまったくもって派手な展開があるわけでもなく、極めて単調に物語は進んで行くのだが、そこに挟み込まれた小さな要素の一つ一つが最終的に全体として大きな物語の仕掛けを構成するという、相変わらずの見事な切れ味を見せる。リューインはおそらくそもそも「ハードボイルド」作家として紹介され、そのように扱われてきたと思うのだが、何作か読んでの感想は、おそらくそれは全くの的はずれであり(「ハードボイルド」作家の定義にも当然よるのだが)、むしろ極めて推理小説的手法に長けた作家ではないか。本作も、読み終わってみると予想もしなかった落下点に着地したなあと感じさせるとともに、その極めて精緻に構築された世界を振り返ってみると、これは決して自己陶酔的でナルシシズムの極致とも言える「ハードボイルド」とは全く異なる地平にいる気がしてならないのです。