小野不由美:月の影 影の海 上・下 十二国記

月の影  影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (上) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影  影の海 (下) 十二国記 1 (新潮文庫)

月の影 影の海 (下) 十二国記 1 (新潮文庫)

なにか周囲に溶け込めず、はかない疎外感とともに生きてきた高校生の陽子は、ある日の放課後の職員室で異様な風体の男に遭遇する。直後に部屋の窓ガラスが吹っ飛び、男に引きずられるように屋上まで連れてこられた陽子は、こんどは怪物に襲われることに。すかさずほぼ強制的に「タイフ」と呼ばれるこの男の、仲間であるらしい空飛ぶ虎に乗せられた陽子は、そのままこれまでの世界とはまったく異なるどこかに漂流してしまう。そこは、どこか中国的な雰囲気を持ちながらも、妖獣が現れたり、不思議な統治制度が敷かれていたりと、どうやらこれまで陽子が当たり前としてきた世界とは異なる場所らしい。それでも家に戻ろうと奮闘する陽子は、騙されて売春宿に売られそうになったり、夜な夜な妖獣に襲われたり、嫌なことを指摘する猿につきまとわれたり人語をしゃべる巨大ネズミに遭遇したりと、基本的には散々な目に逢い続ける。

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七河迦南:アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

前作「七つの海を照らす星」と同じく、県境の海辺の街七海市にある児童養護施設「七海学園」の子供たちと、七海学園の新米職員北沢春菜を描いたシリーズ第2弾。ある年の冬、七海学園のが多く通う七海県立西高校の学園祭の当日に、学園の生徒が屋上からの転落事故に巻き込まれ、北沢春菜はその事故を目撃してしまう。その事故が起こるまでに、七海学園の子供たちには4つの不思議な出来事がおこり、そのすべてに北沢春菜は立ち会い、または巻き込まれていた。この事故は本当に事故なのか、故意に引き起こされた事件、すなわち殺人事件ではとの思いにかられ調査を開始する大人たちの姿が、順に語られる4つの出来事の間に差し挟まれ、物語は鋭い緊張感をもって展開してゆく。

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小川一水:コロロギ岳から木星トロヤへ

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)

2014年2月の午前1時、標高3026メートルの剣ヶ峰近くの北アルプスコロロギ岳山頂観測所で太陽コロナの観測にいそしむ若き観測要員岳樺百葉は、噴火とも思われる轟音と衝撃によってたたき起こされる。観測所長の水沢潔と現状確認すると、大事な大事な望遠鏡が設置された観測ドームが大破している。急いで駆けつけた現場で岳樺と水沢が見たものは、ミサイルサイズの紫蘇漬け大根のようなものが望遠鏡に突っ込みぶちこわしているという無残な姿であった。おもわずモップでその巨大大根を殴りつけた岳樺は、巨大大根から日本語のようなものが聞こえて驚愕する。どうやらこの巨大大根は時間を超えて存在し、217年先の木星トロヤでひっかかった尾のために動けなくなっているらしい。呆然としている岳樺と水沢の前で、巨大大根はさらに不可思議なことを要求する。その尾の近くには人間がいるらしく、彼らに「尾を解放しろ」と伝えてほしい、というのだ。

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七河迦南:七つの海を照らす星

七つの海を照らす星

七つの海を照らす星

どこか地方都市とおぼしき、架空の県境にある七海市は、その名のとおり七つの湾を、といってもとても小さな湾を望む県境にある田舎町で、主人公である北沢春菜は、そのまちの高台にある児童養護施設「七海学園」に勤めて二年目の新米職員である。「七海学園」にはさまざまな理由によって親元では暮らすことができない子供たちが、18歳になるまで暮らすことができるのだが、就学前児童から高校生まで、年齢もバックグラウンドも異なった子供たちは、ただでさえ難しい環境の中で、小さな、しかしとても大きな困難に日々直面してゆく。その姿によりそう北沢と、大学時代の親友でなにかとぼけたところのある野中佳音、そして児童相談所児童福祉司の海王氏の前に、いくつもの不思議な出来事がたてつづけにおこり、巡り巡ってひとつの大きな物語が姿をあらわしてゆく。

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クリス・パヴォーネ:ルクセンブルクの迷路

ルクセンブルクの迷路 (ハヤカワ文庫 NV)

ルクセンブルクの迷路 (ハヤカワ文庫 NV)

アメリカの政府関係の仕事に努めているらしい主人公のケイトは、とりたててハンサムでは無いものの実直で堅実、しかも正直なSEの夫デクスターと、ワシントンDCでつつましい生活を送っていた。ところがある日デクスターがヘッドハウントされ、ルクセンブルグで銀行のセキュリティ関係の仕事を持ってくる。その法外な収入と、こどもたちの教育環境を考えたケイトは、仕事を辞めて主婦となりルクセンブルグに行くことを同意する。そしてルクセンブルグでの生活が始まるのだが、なぜか奇妙な夫妻に生活を監視されたり尾行されたり、いつのまにか隣人のオフィスに不法侵入したり拳銃を購入したり、やたらハードボイルドな生活が始まってしまう。

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東川篤哉:私の嫌いな探偵

私の嫌いな探偵

私の嫌いな探偵

最近凶悪事件が相次ぐ烏賊川市で探偵を営む鵜飼杜夫さんと、鵜飼さんが4階に事務所を構える<黎明ビル>という韜晦寸前の雑居ピルのオーナーで5階に住む二宮朱美さん、そして鵜飼探偵事務所の助手を務める戸村流平くんが繰り広げる、生産性の少ない探偵活動にまつわる物語。深夜の<黎明ビル>に勢いよく激突した男の謎を探る「死に至る全力疾走の謎」、浮気調査が密室殺人事件とまったく偶然に交錯する「探偵が撮ってしまった画」、烏賊神をまつる神社で起きた殺人事件を烏賊の着ぐるみを着た酒屋の娘が解決する「烏賊神家の一族の殺人」、口から白いもやもやっとしたものを発生させながら死んでしまった青年の謎「死者は溜め息を漏らさない」、アパートの一室で小火が起こる「二〇四号室は燃えているか」の5編収録。

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東郷隆:定吉七番の復活

定吉七番の復活

定吉七番の復活

スイスの山奥で納豆の普及を推進する悪の集団NATTOの幹部との闘いのなか、クレバスに落ちて死んだとされた大阪商工会議所の秘密工作部隊OSKが誇る殺人丁稚定吉七番は、実は冷凍状態のまま生きていた!冷戦もバブルもドットコムバブルも終わった2010年代に復活してしまった彼は、あまりの世情の変わりようにアパシーに落ち込み、河っぺりのホームレスソサエティのなかで野生化したフラミンゴとアリゲーターを従え、環境を脅かす少年少女たちの駆除に精を出すが、そんな彼の元にOSKからの秘密指令が下る。NATTOの残党たちが新潟県朝日村で不穏な動きを開始したらしく、彼は往年の技量を買われその動きを未然に防ぐべく、在来線を乗り継いで駅弁を楽しみながら、一路新潟に向かうのであった。

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