七河迦南:アルバトロスは羽ばたかない
- 作者: 七河迦南
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/07/27
- メディア: 単行本
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前作も衝撃的でしたが、本作はとんでもない傑作です。まず、冒頭にある年の冬におちた転落事故とその直後の状況が語られたあと、春・夏・秋・初秋に起きた4つの出来事が描かれ、その間に事件の調査を行う姿が語られるという構成によって、だんだんと事件の「真のすがた」が現れてゆくという構成が素晴らしい。なおかつ、それぞれの季節に起きた出来事は、いっけん転落事故とはまったく関係がありません。
「春の章」では、高いところに異常なまでの拒否反応を示す少年界の過去について、極めて悲惨と思われていた状況が北沢の調査によって少しずつ姿を変えてゆく過程が描かれます。続く「夏の章」では、県内の施設対抗サッカー大会で発生した選手の大量消失事件を、児童福祉司の海王氏と北沢が解き明かします。「初秋の章」では、最近ほかの学校から転校してきた樹利亜が見せびらかすクラスメートにもらった寄せ書きを、エリカが盗んで隠してしまいます。その事実を認めながらも頑として寄せ書きのありかと盗んだ理由をかたらないエリカが、実はとても思いやりのある少女だったことを北沢が突き止めます。「晩秋の章」では、ヤクザで収監されていた父親が出所し娘の望をむりやり引き取りに来る場面に居合わせてしまった北沢が、あれやこれやの手段を使ってなんとかやり過ごそうとがんばります。
これらの出来事が、最後に置かれた「冬の章」では見事につなぎ合わされ、転落事故の真相が明らかにされてゆきます。その構成の妙もさることながら、この大きな枠組みのなかに隠されたもう一つの大胆な仕掛けは、「泡坂妻夫か!」と叫びたくなるような衝撃と、とても爽やかな読後感をもたらしてくれました。描写の端々に感じられる子供たちや児童養護施設への深い愛情も、相変わらずです。なんというか、ものすごい書き手が現れて、うれしくてたまりません。