七河迦南:アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

前作「七つの海を照らす星」と同じく、県境の海辺の街七海市にある児童養護施設「七海学園」の子供たちと、七海学園の新米職員北沢春菜を描いたシリーズ第2弾。ある年の冬、七海学園のが多く通う七海県立西高校の学園祭の当日に、学園の生徒が屋上からの転落事故に巻き込まれ、北沢春菜はその事故を目撃してしまう。その事故が起こるまでに、七海学園の子供たちには4つの不思議な出来事がおこり、そのすべてに北沢春菜は立ち会い、または巻き込まれていた。この事故は本当に事故なのか、故意に引き起こされた事件、すなわち殺人事件ではとの思いにかられ調査を開始する大人たちの姿が、順に語られる4つの出来事の間に差し挟まれ、物語は鋭い緊張感をもって展開してゆく。


前作も衝撃的でしたが、本作はとんでもない傑作です。まず、冒頭にある年の冬におちた転落事故とその直後の状況が語られたあと、春・夏・秋・初秋に起きた4つの出来事が描かれ、その間に事件の調査を行う姿が語られるという構成によって、だんだんと事件の「真のすがた」が現れてゆくという構成が素晴らしい。なおかつ、それぞれの季節に起きた出来事は、いっけん転落事故とはまったく関係がありません。


「春の章」では、高いところに異常なまでの拒否反応を示す少年界の過去について、極めて悲惨と思われていた状況が北沢の調査によって少しずつ姿を変えてゆく過程が描かれます。続く「夏の章」では、県内の施設対抗サッカー大会で発生した選手の大量消失事件を、児童福祉司の海王氏と北沢が解き明かします。「初秋の章」では、最近ほかの学校から転校してきた樹利亜が見せびらかすクラスメートにもらった寄せ書きを、エリカが盗んで隠してしまいます。その事実を認めながらも頑として寄せ書きのありかと盗んだ理由をかたらないエリカが、実はとても思いやりのある少女だったことを北沢が突き止めます。「晩秋の章」では、ヤクザで収監されていた父親が出所し娘の望をむりやり引き取りに来る場面に居合わせてしまった北沢が、あれやこれやの手段を使ってなんとかやり過ごそうとがんばります。


これらの出来事が、最後に置かれた「冬の章」では見事につなぎ合わされ、転落事故の真相が明らかにされてゆきます。その構成の妙もさることながら、この大きな枠組みのなかに隠されたもう一つの大胆な仕掛けは、「泡坂妻夫か!」と叫びたくなるような衝撃と、とても爽やかな読後感をもたらしてくれました。描写の端々に感じられる子供たちや児童養護施設への深い愛情も、相変わらずです。なんというか、ものすごい書き手が現れて、うれしくてたまりません。