ヘニング・マンケル「白い雌ライオン」

白い雌ライオン (創元推理文庫)

白い雌ライオン (創元推理文庫)

南アフリカ共和国にある秘密組織が、自国の要人を暗殺するための場所に暗殺者養成にスウェーデンを選んでしまったばっかりに、中年の危機を迎えつつある中年刑事ヴァランダーは、またしても女性の失踪や家屋の爆発やアフリカ系人種の切断された指の発見など、大変な事件に巻き込まれることになる。

前作ではスパイ小説張りに大奮闘を繰り広げたヴァランダーだが、本作では少しその活躍も落ち着いた雰囲気があり安心した。しかし、どのような展開になるのかと思っていたら、またしても予想を裏切る今までにない展開で、とても楽しめた。これは、最近読んだ小説で言えばアクーニンの「アキレス将軍暗殺事件」にも似た雰囲気であり、つまり刑事と犯人が、別々の視点で同時進行的に物語を進めるというものである。4作品読んだ上で、ヘニング・マンケルという人は、物語の内容だけでなく、構成でもずいぶんと幅広い作風を持つ人だという感想を抱いた。前作「リガの犬たち」はちょっと無理があるなあと感じたものだが、本作では小説の構成が物語の内容とも見事に響き合う秀逸な出来で、とても面白く読みました。しかし何となく感じるのは、国際的な謀略の舞台がスウェーデンという、なんとも超現実的な設定のおかしさである。これは、どんな物語でも舞台が日本になってしまうことを、なんの違和感もなく読んでしまう自分の状況を、ある意味違った視点から見ているような気がするという、とても不思議な感覚である。それでも、毎年夏になると世界を救ってくれるハリウッド映画に感じるような滑稽さをまったく感じず、むしろこの物語はスウェーデンだからこそ成立するのだと思わせる作者の力量は、大変なものだ。こうやって、全くの娯楽作品によって福祉の国スウェーデンの印象が変わりつつあるというのは、ある程度福祉を専門的に勉強したことがある自分としてはとても興味深い。しかし、文庫で1500円は高いなあ。。