赤城毅「書物狩人」

書物狩人 (講談社ノベルス)

書物狩人 (講談社ノベルス)

この世に存在を許されぬ古書を収集することを生業とする「書物狩人」の一人の活躍を描いた中編集。JFK暗殺にまつわる教科書の争奪戦を描いた「教科書に準拠して」、カトリック教会の存在の基盤を揺るがす福音書に関する「神々は争う」、ナポレオンの蔵書と目される書物に関する「Nの悲喜劇」、古代中国の歴史書にまつわる「実用的な古書」の四編収録。

赤城氏と言えば優れたジュブナイル小説家だと思っていたのだが、こんな小説をあっさり書き上げてしまうくらいだから、ずいぶんと書物の魔の手に絡め取られてしまっているみたいなのだが、それはさておきとても面白い。文章は多少崩し気味というか、切れ味よりは説明的表現を優先させる親切設計の語り口だが、物語の内容は思わず引き込まれてしまうくらいのハードな構築をされていて、そのギャップが素晴らしいというか、とにかくなんだか面白いオーラが漂う。物語としては一つのエピソードがだいたい一つのクライマックスで構成される、簡潔にして単純な組み立てなのだが、そこに差し挟まれる書物的蘊蓄というか衒学的趣向は、ある種常軌を逸していて素晴らしい。ああ、この人は本当に本が好きなんだなあと思うことができる良作でした。なかなか重みがある内容だと思ったのだが、2時間で読み終わってしまうから不思議である。一体この人は文章が上手いのかなんなのか。よく分からないがとても楽しめました。