森見登美彦「きつねのはなし」
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/28
- メディア: 単行本
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「新釈 走れメロス」「太陽の塔」と読み進み、これはなかなかの作家だと思い書店に並んでいた本書を手に取ったのだが、なんだかここに来て少し印象が変わったというか、さすがに続けて読むと飽きが来たのかそんなに新鮮味が感じられない。まず感じたことは、「水神」のような幻想的小咄はとても面白いのだが、しかしこのようなしっとりとして静かな雰囲気は、例えば津原泰水氏の短編に比べてしまうと、残念ながら見劣りがしてしまうと言うか、もう少し寝かせておいても良かったのではと感じてしまう。でも、とても面白かった。「果実の中の龍」は、これは途中までああまた大学生のおはなしかと思い、すこしばかりうんざりしながら読んだ。この人の大学生噺は面白いのだが、なにか学生生活をそのまま延長している地平で書かれているというか、突き放した雰囲気がなくなんとも間が抜けた雰囲気がしてしまう。最初のころは面白かったのだが、さすがに3作も続けて読むとうんざりだ。などと感じながら読んでいたのだが、物語終盤における展開は非常に切れ味鋭く大変楽しめた。ここまでうんざりさせながら読ませなくてもとも思ったが、結果的にはこの話が一番面白かった。「きつねのはなし」は、物語の雰囲気はとても素敵なのだが、なにか騒がしいというか、文章に落ち着きがない。設定に多少無理があるのではないか。「魔」は面白かった。が、なにか物語の焦点が定まらない。どのような文章を書きたいのか、はっきりしない。クールで冷たい文章なのか、日影丈吉のように泥臭くも幻想的な文章なのか、それともあくまで読み手を楽しませる文章なのか。突き抜けるまで、もう少し色々なことがありそうな文章だと感じた。全体としては、面白かったのだがなにか物足りないというか、輪郭がぼやけているという印象がある。読んでいる順番がばらばらなので、印象自体がトリッキーだなあと思ったが、少し時間をおいてから森見氏の未読作品を読んでみようと思う。