ロイス・マクマスター・ビジョルド「戦士志願」

戦士志願

戦士志願

ある惑星の貴族で宰相の息子は虚弱体質、というか先天性の身体障害者で、いろいろとひねくれながらも努力を重ね士官学校の入学試験をうけるのだが、やはりその身体特性故に落第、失意の彼を慰めるべく父は宇宙の彼方へ送り出すのだが、その道すがら一儲けたくらんだ彼は、いつの間にか宇宙海賊の戦闘のまっただ中に突入し、そのたぐいまれなる発想力と異常な行動力によって自分の宇宙傭兵艦隊を作り上げてしまう話。ちなみに原題は「The Warrior's Apprentice」なので、直訳としては「戦士見習い」くらいだろうと思う。「魔法使いの弟子」にかけた「兵士の弟子」みたいな感じなのではないかと思うが、よく分からない。閑話休題

最近は読みたいと思う本が見つからないと、すぐにビジョルドに手が伸びてしまう。これも文庫刊行当時に読んだ覚えがあるので、16年ぶりに読み返すということになるが、ずいぶん印象が変わっていて面白い。初読時からビジョルドの異様さには強烈な印象を受けていたことは確かなのだが、今読んでみると記憶以上にその思想は批評的であり、脱構築的である。とにかく、彼女の小説の主人公は不思議と非マッチョなのである。主人公は高いところから落ちたら両足を骨折してしまい、恐ろしく拷問の上手な彼の護衛は精神的なトラブルを持つ。唯一「男らしく」育ってゆくキャラクターは主人公の幼なじみの女性で、彼の右腕、左腕として力をつけてゆく人たちはみんなあるシステムの脱落者なのである。マッチョで「健全な」主人公たちが、当たり前のように危機を脱してゆく話しってなんて面白くないんだと、なにか改めて気づかせてくれる本書は、本当にもやもやとした読書が続く時期には気持ち良く読むことができるのである。一方で物語自体は結構ご都合主義的に、安心しながら読み進むことができ、その期待を決して裏切らないハッピーエンドが待ち受けているのではあるが、しかしまたそのハッピーエンドの内容が面白い。主人公は敵をやっつけられることよりは法律上の自分の立場と行為の評価を最も恐れ、しかも結果的に政治的なやりとりのなかで全てのけりがつく。戦闘中も隊員に支払う給料を気にする主人公には、正直胸がすっとする。以前はもっと「正統的な」SFだと思って読んでいた気がするから、こちらの読み方もずいぶん変化したものである。しかしもっと簡単な小説だと思ったのだけれど。ずいぶんストーリーや諸々も説明が難しくてびっくりした。理解力は年とともに衰えているということなのだろうか。。