森福都「漆黒泉」

漆黒泉

漆黒泉

宋の都を舞台とした冒険活劇。幼いころに宰相の息子の許嫁となった少女は、その相手が数ヶ月後に死亡するのだが長じてからもずっと自分は宰相の家の嫁であると思い続ける。そのうちに息子の死に疑問が生じた彼女は、その謎を解き明かそうとするのだが、様々な人々の様々な思惑に巻き込まれて大変難儀をするはなし。

物語的にはとても面白いと思うのだが、なにかのめり込めないものがあるのはなぜなのだろうか。おそらく、視点をめまぐるしく展開させる手法を取っている割には、それぞれの人物の視点の掘り下げが浅く、なんとも物足りないためであろう。不思議と超然としているように見える少游は、読めば読むほどただの馬鹿であり、すぐかっとなる主人公は、まったくもって主人公たるオーラを感じさせない。こんな調子なので、あんまり読み進む気が起きず、気分も盛り上がらない。物語自体もなにか行き当たりばったり感が強く、構築されたものを感じないので面白くない。この作者にしては珍しくのめりこまず、読みきるのに時間を要した作品だった。