小川一水:天冥の標 V 羊と猿と百掬の銀河

惑星パラスのオロン盆地で農業を営むタックには、老朽化した設備の更新やミールストームなる巨大資本の参入による小規模農家の圧迫、意地の悪い集荷場主にして地区長のマスジドの扱いなど悩むべき事柄が山積していたが、中でも15歳になる娘のザリーカの反抗的な態度と都会に逃げ出したいとの思いには、ほとほと手を焼いていた。確かに逃げ出したくなる環境だと思いつつ日々の仕事に追われるタックは、ある日難破した宇宙船の救助を手伝うことになる。その宇宙船から救出された地球の植物学者アニーは、なぜかタックの農場が気に入り、勉強と称して居座り続ける。その旺盛な好奇心と勤勉さに感心しているタックに、ザリーカの脱走や猛烈な小麦の伝染病、そして更なる試練が襲いかかる。

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東直巳:探偵はバーにいる

探偵はバーにいる ススキノ探偵シリーズ

探偵はバーにいる ススキノ探偵シリーズ

ススキノで便利屋稼業を営む「俺」は、いつしか探偵のまねごとをする人間として認知されていたらしく、ある日夜の常の居所であるバー「ケラー」に入ると、中退した大学の後輩に「同棲している彼女がもう四日も帰宅していないので探してほしい」と頼まれてしまう。なぜだか断れずに彼女を探すことになってしまう「俺」は、単なる痴話げんかや気まぐれだろうと高をくくっていたのだが、いっこうに見つけ出すことができない。いろいろと尋ね歩いているうちに、失踪と時を同じくして発生したラブホテルでの殺傷事件に彼女が関係している可能性が生じ、事態はどんどん危険な方向へと向かうことになる。

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小川一水:天冥の標 IV 機械じかけの子息たち

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)

突然自分が病室のようなところで見知らぬ少女に介抱されていることに気がついた少年は、自分の名前はおろかなぜここにいるのか、そもそもここがどこなのかということさえわからず混乱に陥るのだが、そのまま介抱されているうちになぜか少女と性的な交わりを持ってしまう。その興奮状態から離脱するにつれ、自分のキリアンという名前や自分が<救世群>、すなわち冥王斑感染者であること、それにも関わらず非感染者と接触してしまったことに気がついた少年は驚愕するのだが、少女にはまったく動じた様子も見られない。少女は<恋人たち(ラバーズ)>と呼ばれる、人間に性的に奉仕することを目的としてつくられたアンドロイドだったためである。その<恋人たち>は、自分たちの住居である人工惑星が謎の勢力によって破壊されつつあるという、危機的状況にあった。その状況を打開するため、キリアンとそのパートナーとなるべく作られたアンドロイドのアウローラは、なぜか理想的性交「混爾(マージ)」を追求する、長い長い性交の旅に旅立つこととなる。

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法月倫太郎:犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッパ・ノベルス)

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッパ・ノベルス)

星座にちなんだ短編ミステリ集<星座シリーズ>第2弾。本作では殺人現場に残されたタロットカードに法月親子が翻弄される「宿命の交わる城で」(天秤座)、解散したアイドルグループの再結成にまつわる奇妙な事件「三人の女神の問題」(蠍座)、ストーカーの被害者の男性が一転して被害者の立場に陥る「オーキュロエの死」(射手座)、失踪した音楽評論家が残した謎のメッセージにまつわる「錯乱のシランクス」(山羊座)、有名経営コンサルタントを母に持つ女装癖のある青年が巻き込まれた誘拐騒ぎ「ガニュメデスの骸」(水瓶座)、うろんな占い師にとりつかれた女性経営者が巻き起こした一騒動「引き裂かれた双魚」(魚座)の6編収録。巻頭には「九年近くかかって、やっと十二星座の物語が揃いました」との著者の言葉はあるものの、前作をこれまた覚えていないのはちと残念。しかし、そうであろうが法月氏の作品が読めることは、とても喜ばしいことなのです。

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小川一水:天冥の標 III アウレーリア一統

天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)

天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)

西暦2250年ごろ、木星の近傍に謎の巨大人工物が発見され探検隊が派遣されるが、マッドなサイエンティストの暴走の末どこかへ消滅してしまい、そのサイエンティスト、ドロテアが残したレポートのみが残された。その60年後、すなわち第2巻で冥王斑が発見されてから300年後、人体改造を繰り返すことによって真空中でも宇宙服無しに活動できるようになった一族<酸素いらず(アンチ・オックス)>たちは、宇宙の海賊を取り締まる警察国家の任を果たしていた。その艦隊の艦長であるアウレーリアは、<救世群(プラクティス)>のコロニーが海賊に襲われ、「ドロテアレポート」なる謎の巨大遺跡についての情報が盗まれたことを知る。<救世群>のためにもレポートを奪還すべく行動に出るアウレーリアのもとに、セアキと名乗る男が接触、<医師団(リエゾン・ドクター)>の調査員と称するその男は、<救世群>のためにアウレーリアと行動を共にしたいと要請する。なんだかうさんくさく思いつつもセアキとともに海賊狩りに乗り出すアウレーリアは、海賊や<救世群>や冥王斑やロイズ非分極保険社団や謎の生命体などの思惑に翻弄され、さんざんな目に遭う。

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東直巳:消えた少年

消えた少年 ススキノ探偵シリーズ

消えた少年 ススキノ探偵シリーズ

暮れにiTunesでレンタルして観た「探偵はBARにいる」がめちゃくちゃ面白かったので原作を読んでみようと思ったのですが、映画の原作は<ススキノ>探偵シリーズの第2作目、「バーにかかってきた電話」とのことで、それでは第1作目「探偵はバーにいる」を読んでみようと思ったら、近所の書店ではなぜか品切れ、ということで第3作目の本書を読むことに。ちょっとばかしひねくれた少年が友人とともに失踪、その後友人が陰惨な死体で発見され、少年の担任の先生が<ススキノ>探偵に少年の探索を依頼するもなかなか消息がわからないでいるうちに、なぜか障害者施設建設反対運動が関わりを見せ始める。

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小川一水:天冥の標 II 救世群

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫JA)

第1巻から話はさかのぼること800年、201X年にパラオ諸島のひとつの島ので未知の伝染病が発生、一報を受けた国立感染症研究所の医師である児玉圭伍と矢来華奈子はすぐさま現地に赴くが、そこでは罹患者のほとんどが死亡するという壮絶な状況が展開していた。この伝染病は極めて高い感染力と致死率を持ち、現地に滞在したほとんどの人々は発症ののちに死亡したが、奇跡的に一人の日本人の少女が発症から回復する。この、感染者の目の周囲には黒斑が生じることなどから「冥王斑」と呼ばれるようになった伝染病は、その後世界中でパンデミックの様相を呈してゆくこととなる。

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