東直巳:探偵はバーにいる

探偵はバーにいる ススキノ探偵シリーズ

探偵はバーにいる ススキノ探偵シリーズ

ススキノで便利屋稼業を営む「俺」は、いつしか探偵のまねごとをする人間として認知されていたらしく、ある日夜の常の居所であるバー「ケラー」に入ると、中退した大学の後輩に「同棲している彼女がもう四日も帰宅していないので探してほしい」と頼まれてしまう。なぜだか断れずに彼女を探すことになってしまう「俺」は、単なる痴話げんかや気まぐれだろうと高をくくっていたのだが、いっこうに見つけ出すことができない。いろいろと尋ね歩いているうちに、失踪と時を同じくして発生したラブホテルでの殺傷事件に彼女が関係している可能性が生じ、事態はどんどん危険な方向へと向かうことになる。


第3作目から読み始めてしまった<ススキノ探偵>シリーズ、順番は逆になってしまいましたがようやく第1作目を読むことができました。第3作目ではずいぶんと老成した風を感じさせていた「俺」は、本作では28歳で「ぢぢい」を自称するなどとても若々しい空気を漂わせています。そのためか、物語も非常にリズム良く、また高い密度を保って進行するため、途中で誰が誰やらすこしわからなくなり混乱してしまいました。これはやはり、1作目と言うこともあって作者が存分にアイディアを詰め込んだからなのかなあ。


とにかく、本作では矢継ぎ早に騒動が勃発し、のんびりと後輩の彼女を探していたはずの「俺」は、極めて他律的に危険の中に叩き込まれてゆきます。なぜか少年たちに絡まれたり、ラブホテルで大乱闘を繰り広げたり、テレクラ事務所に違法侵入したり、ヤクザの若頭の不興を買ったりなど。第3作目ではそれほど感じなかったのですが、このような物語のドライブ感は<ススキノ探偵>にはあまり似つかわしくないような、そんな妙な感覚に襲われました。僕の知っている<ススキノ探偵>は、もっとぼんやりのんびりしながら、走れと言われれば歩き、止まれと言われればスキップするような、そんな感じがしていたのですが。


で、面白かったのかと言われればとても面白かった。物語の展開の疾走感もとても楽しいのですが、とにかくどこかひねくれた感のある登場人物たちの姿がとても清々しいのです。その中でも「モンロー」を自称するコールガールのお姉さんの割り切れ方と、この事件の発端となった失踪彼女の割り切れなさの、鮮やかな対比によって紡ぎ出される人間の複雑さというか、単純さというか、とにかくやたら切実な理不尽さが、この物語をススキノから遠く離れた、どこか神話的な世界へと持ち上げているようにも思え、なかなかきれいには着地してくれない物語の結末でありこのシリーズの始まりを、大きく祝福しているように感じさせられたのです。いや、多少大げさですが。でも、面白かった。