法月倫太郎:犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッパ・ノベルス)

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッパ・ノベルス)

星座にちなんだ短編ミステリ集<星座シリーズ>第2弾。本作では殺人現場に残されたタロットカードに法月親子が翻弄される「宿命の交わる城で」(天秤座)、解散したアイドルグループの再結成にまつわる奇妙な事件「三人の女神の問題」(蠍座)、ストーカーの被害者の男性が一転して被害者の立場に陥る「オーキュロエの死」(射手座)、失踪した音楽評論家が残した謎のメッセージにまつわる「錯乱のシランクス」(山羊座)、有名経営コンサルタントを母に持つ女装癖のある青年が巻き込まれた誘拐騒ぎ「ガニュメデスの骸」(水瓶座)、うろんな占い師にとりつかれた女性経営者が巻き起こした一騒動「引き裂かれた双魚」(魚座)の6編収録。巻頭には「九年近くかかって、やっと十二星座の物語が揃いました」との著者の言葉はあるものの、前作をこれまた覚えていないのはちと残念。しかし、そうであろうが法月氏の作品が読めることは、とても喜ばしいことなのです。


月氏の作風は、といえるほどミステリの文法に詳しいわけではありませんが、なにか非常に古風というか、悪く表現すれば「時代遅れ」または「反時代的」とも言えるものだと感じます。だって、主人公は文筆業ではあるらしいのですがそれほど働いているとは思えず、本業からどうやって収入を得ているのかよくわからない青年(ないし中年)男性、父親との二人暮らしでけっこう仲むつまじく、また父親は警察官なのですがわりと気軽に捜査機密を息子に開示し、息子は現場にだって乗り込んでしまいます。これを、アナクロニズムと言わずして、なんと言えば良いのか。


これは別にけなしているでは無く、とにかく舞台が現代的には浮き世離れしているように感じられるのです。しかしながら、それぞれのエピソードがはじまるやいなや、この不思議な舞台がまったく違和感を感じさせること無く物語に着地し、極めて心地よく滑り出すから不思議でたまりません。おそらくこの時代錯誤的な作劇法は、極めて緻密に構成され、また自覚的にあつらえられているとしか思えません。やはり「形式」には「形式」の美しさがあって、それは時代を問わないものなのでは無いか、そのように確信し、ないし読者に思わせることをストイックに追求している作家が、法月氏という作家に思えるのです。


それぞれの物語は、解散したアイドルグループのその後の顛末や、ある種の自己暗示的な世界にとらわれてしまった経営者など、これまた懐かしさを感じさせる筋書きによって進められていきます。でも、あまりに精緻に構築され、また無駄なくたたみかけられるプロットに、読んでいてまったく油断ができません。僕は基本的にミステリ小説を分析的に、すなわち物語の構造に思いをはせながら読むことは無いのですが、法月氏の作品だけにはどうしても作者の「意図」や物語の構造を考えずにはいられません。普通に読めば端正なミステリなのですが、どうも作者はメタ的な立ち位置から世界を構築しているような気がしてたまらないのです。そんなことはまるでないかもしれませんし、もしかしたらそうなのかもしれませんが、とにかく法月氏の作品は他の作家には見られない「ミステリ」の美しさをいつも感じさせられますし、本作でもやっぱりその美しさに圧倒されてしまいました。