小川一水:天冥の標 III アウレーリア一統

天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)

天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)

西暦2250年ごろ、木星の近傍に謎の巨大人工物が発見され探検隊が派遣されるが、マッドなサイエンティストの暴走の末どこかへ消滅してしまい、そのサイエンティスト、ドロテアが残したレポートのみが残された。その60年後、すなわち第2巻で冥王斑が発見されてから300年後、人体改造を繰り返すことによって真空中でも宇宙服無しに活動できるようになった一族<酸素いらず(アンチ・オックス)>たちは、宇宙の海賊を取り締まる警察国家の任を果たしていた。その艦隊の艦長であるアウレーリアは、<救世群(プラクティス)>のコロニーが海賊に襲われ、「ドロテアレポート」なる謎の巨大遺跡についての情報が盗まれたことを知る。<救世群>のためにもレポートを奪還すべく行動に出るアウレーリアのもとに、セアキと名乗る男が接触、<医師団(リエゾン・ドクター)>の調査員と称するその男は、<救世群>のためにアウレーリアと行動を共にしたいと要請する。なんだかうさんくさく思いつつもセアキとともに海賊狩りに乗り出すアウレーリアは、海賊や<救世群>や冥王斑やロイズ非分極保険社団や謎の生命体などの思惑に翻弄され、さんざんな目に遭う。


第1巻が2800年頃を舞台にしていたので、このエピソードは冥王斑発生から第1巻の真ん中よりすこし前を舞台にしていることになります。しかし第1巻が高度に発達した文明が滅んだ後の百姓一揆みたいな素朴な社会闘争を描いていたのに対し、本巻では宇宙船が光を超えた速度で行き交い戦い会ったり、すべてのものに保険をかけて事実上世界を支配する保険社団が存在したりと、どちらかというと文明的には進んだ世界を描いています。そのように時代的にはなにかねじれを感じさせるのですが、基本的には海賊的なヒーローアウレーリアが無茶を行い、それを人間で医療従事者に関係するセアキがサポートするという、第1巻と変わらぬ構図が見えてくるところがおもしろい。


物語の骨格としては、第2巻で萌芽を見た<冥王斑>罹患者たちのコミュニティが<救世群>として20万人規模にまで拡大していたり、2巻で大活躍の矢来や児玉たちが源流となった<冥王斑>罹患者とそれ以外の世界との調整役が<医師団>としてこれまた大規模組織に成長していたりと、なんだか出演者が揃ってきた感じがあります。また、第2巻でほのめかされた謎の宇宙生命体がフェオドールに憑依したまま300年間でいろいろと変態を遂げたり、ロイズなる厳格な営利団体主権国家以上に政治的勢力を進捗していたり、また新たな要素も加わってだんだんよくわからなくなってきました。


本巻では、これまで読者の前になにげなく示されてきたフェオドール、すなわちダダーの存在が明示的に説明されるのですが、加えて「ドロテア」という、ダダーと敵対するらしいこれまた謎の地球外生命体の存在も明らかになります。よくわからないのが、このドロテアに関係するらしい謎の地球外生命体とアウレーリアの関係で、どうやらアウレーリアの乗る戦艦を操るAIの「カヨ」はこの謎の生命体となんらかのつながりがあるらしい。ところが第1巻、つまり500年後にはアウレーリアの子孫をカヨは助けることになる。また第1巻では<酸素いらず>の子孫と思われる<海の一統>は「ドロテアの乗員」と呼ばれていたような気もするし、なんだかどのように物語がつながってくるのか、混沌としてきてしまいました。ただ、本巻において<酸素いらず>は結局<救世群>のお目付役となり、その後つかず離れずの道を歩むことになることは思い出しました。次は第4巻、機械仕掛けの子息たちです。確か<ラバーズ>たちのエピソードだったような。