門井慶喜:天才までの距離

前作と同じ、西洋美術史の先生がいろいろな難題をもちこまれて、感覚的に真贋がわかる神永さんにたよるはなし。


ちょっと気持ち悪いのは、主人公の神永さんに対する依存度が愛情、つまりホモセクシュアルなふんいきに感じられることで、それはそれで良いのだけとそれらばそうと言ってほしかったなあ。


もとい、相変わらずの文章の切れの良さ、言葉の選び方の静謐さは、読んでいて背筋がしびれるくらいの気持ちよさがありました。基本的には絵画に対する謎解きなのだけれども、何でこんなこと知っているのってくらい、微に入り細にうがつくらい丁寧に説明されています。いわゆる「本格」ミステリの自家充足的な不穏な雰囲気に比べると。なぜここまでってくらい、描写が物凄い。


物語自体は、ちょっと甘きにながれるというか、少しぼんやりした感じが感じられて、締まりがないような気がすることもありません。でもそれにもまして、著者の言葉の選び方、文章の構築の仕方、そしてそこに込められた想いが、びんびん伝わってくる力強さがあります。願わくば、あまり多作にならないように。着実な作品を、ゆっくりと書いてくれんことを。