閑話休題:なぜ僕はその本を読むのか。

昨日はフットサル仲間+友人たちと飲み、久しぶりに楽しい会話をすることができたのだが、ひとつ気になったことばがある。それは、「いったい、なんでその本をそもそも読んだの?」という質問である。これは確かに、いつか言われるだろうなあと思っていたことである。その場ではきちんと答えることができなかったので、この問いを「どうやって読む本を選ぶのか」という問いに横滑りさせた上で少し考えてみたい。



1)気に入った作家の本を読む

これは最も単純かつ幸せな理由である。奥泉光水村美苗山田正紀松尾由美小路幸也津原泰水諸氏やその他十数名の作家が新作を出版すれば、内容は確かめずにすかさず購入して読む。これは、ほとんどはずれることが無い。この方法の問題は、それほど上記の作家の方々が本を出版してくれないと言うことである。だいたいは一年に1冊程度、水村氏に至っては7年に1冊程度のペースであり、これではとても毎日幸せな読書を楽しむことはできない。


2)単行本で読んだ本が文庫で再版されたときに読む

これもはずれることがない。たいていの場合文庫で再版される本は質が高く、しかも買いたくなるような本は間違いなく面白い。最近この手のパターンで読んだのは目取間俊氏の「水滴」で、やはり素晴らしかった。欠点は、新たな作品を発掘することができない。


3)貸した本を返してもらったときに読む
本を貸すという作業は布教に近い。自分が信じ崇め奉るものを、むりやり押しつけるように貸すわけで、絶対に面白いという確信に満ちあふれている。ところが、人の感じ方というのはそれぞれなので、あんまり喜ばれないことも多く、だからこそ帰ってくることを期待せずに人に貸し続ける作業を繰り返してしまう。奥泉光の「葦と百合」は、憶えているだけで4冊買って、全て人にかして返ってこなかった。もとい、結果貸した本が返ってきた場合、それは極めて高い確率で面白い。この方法の欠点は上に同じく、新たな作品を発掘することができない。


4)ネットの評判

これは比較的はずれの少ない方法である。むしろ、ブログ等で紹介しているその人の文章を読めば、その人が面白いと思われるほんと自分の趣味があっているのかいないのか、だいたい類推することができる。よくお世話になったのは、殊脳大先生の「mercy snow official homepage」や、「たそがれspringpoint」改め「一本足の蛸」、「不壊の槍は折れましたが、何か?」などのサイトである。これは、自分の趣味と全く違うタイプの本が発見できるのでとても楽しい。


5)本屋でジャケ買い

不思議なことに、表紙の絵が素敵な本は内容も素晴らしいことが多い気がする。かといって、表紙が最悪だからと行って内容も最悪だと限らないところがまた面白い。やはり、作家の美的感覚は、表紙にあらわれることも多い気がする。この方法の欠点は、シリーズものの場合、内容によらず表紙が素晴らしくなり、結果として騙されてしまうことがある点である。


6)タイトルで衝動買い

タイトルも小説を選ぶ一つの基準である。「赤い竪琴」なんて言われた日には買うしかないし、「空を見上げる古い歌を口ずさむ」なんて言われたら買うしかないでしょ?でも、これも素敵なタイトルだから必ずしも良いわけではないという難しさがある。「一瞬の光」なんて素敵なタイトルで、読んでみようかとは思っているのだがなぜか未だに買っていない。


7)ちょっと読んでみて買う

これが結局のところ一番多いのだが、残念ながら一番失望することも多い。多くの場合、ある程度粗筋が理解でき興味をそそられれば買ってしまうのだが、じっくり内容を立ち読みする気もしないのでちょっと読んでみて買ってしまう。これが、大きな悔恨を招くことになる。やはり文章は切れとリズム、かつうねりのようなグルーブ感が大事だと思うのだが、ちょっと読んだだけではこれは感じることができない。でも、きっとこれは面白いのではないかと祈りながら買ってしまう。


あと、ついでに僕が読まない本の基準は、

8)ベストセラーは、売れている間は読まない

人の趣味はそれぞれであるという立場で考えれば、「みんなが楽しめる」ものはおそらく「そんなに大胆なものではない」。どんなベストセラーも、3年経ってみてまだ面白いという人がいれば読むが、そうでなければとりあえず読まないでおくことが失望しない一つの方法のような気がする。


なんだかだらだら書いてしまったが、言いたいことは僕はいつだって素敵な本であるようにと祈りながら本を買っているということなのである。確かに、数行読んだだけで心の底から腹立たしくなることもたまにはあるが、決して批判的に読むために読書をしているわけでは無いのです。でも、やはり、自分が心から良いと思えるものにたどり着くためには、その何倍もの凡庸、またはそれ以下の水準のものを試してみなければならないとも思います。それはそれで楽しい作業ですし。とりあえず以上。