姜尚中「姜尚中の政治学入門」

姜尚中の政治学入門 (集英社新書)

姜尚中の政治学入門 (集英社新書)

姜尚中が「アメリカ」、「暴力」、「主権」、「憲法」、「戦後民主主義」、「歴史認識」、「東北アジア」の7つのキーワードをめぐって、現在の日本に住み人々が経験する事柄と将来の展望について解説した本。


記述は極めて平易で言葉遣いも分かりやすい。しかし、その内容は一読しただけではちょっと手に負えず、未だ理解もできていないと思われるのでコメントができない。なんとなくなるほどなあと思った事は、例えば「憲法」の章の「そもそも憲法とは、権力者による力の行使を、どのように縛るのかを定めたものです」、「そもそも、憲法には、個別具体的な価値の実態に口を挟む義務など内のです」などという記述や、「歴史認識」の章における「したがって、歴史認識という言葉自体に、私は違和感があります。やはりこれは「歴史問題」と捉えたほうがいいでしょう」などの記述であった。


むしろわかりやすかった、というか、非常に読みやすかったのはあとがきで、鮮度は無くても長い時間を射程においた知識(「干物の知」と著者は呼ぶ)によって、物事の善し悪し、正しい正しくないを直感することが大事なのだ、と説いている箇所である。これはともすれば極めて危険な呼びかけにも思えるのだが、本書で挙げられた事柄の時間的スケールと知識の量を見れば、これも一つの方法なのかも知れないと、ある種の希望を持って考えることもできる。最近読みやすい本ばかりを上梓してきた姜先生だが、本書は専門ということもあり多少理解するのに努力を要する。しかし、よく考えてみればこれだけの内容をこの薄さと文字数の少なさに納めることは、ただならぬ事のような気もする。このような入門書的書籍の難しいところは、読めば何となくわかった気になるが、その実全く理解しているわけでもなく、かといって足りない知識を補おうとすれば膨大な量の勉強が必要になってしまうところだ。でもまあ、なんとなく頭の整理がついてきた事柄がなくもないので、良かった気がします。