佐飛通俊「円環の孤独」

円環の孤独 (講談社ノベルス)

円環の孤独 (講談社ノベルス)

2050年、宇宙ホテルに招待された刑事がある殺人事件に遭遇する。その謎を解き明かそうとするうちに、3年前の過去への旅行中に起こった殺人事件が浮かびあがる。


そういえば「読む本を選ぶ理由」に入れ忘れていたことに、「ノベルスの新刊をチェックする」ということがあった。講談社に限らずノベルス全般は、一時期素晴らしい作家を次々輩出していた。舞城王太郎がその最高峰だと思うが、ほかにも石持浅海伊坂幸太郎(「陽気なギャング」ね)、東川篤哉、殊能大先生だってノベルス出身ではないか。というわけで、やはりノベルスの新刊は手に取ってみて、結構買ってしまう。これもその習慣で買ったもの。しかし、一方で最近この分野にあまり楽しみを憶えなくなってしまったことも確かである。それは自分の趣味が変化したのか、新刊に元気がないのかよく分からないのだが、とにかくこの作品も残念なことにほとんど楽しめなかった。


だいたい、見開きの登場人物表に書かれた登場人物が21人というところで気分が萎える。しかも、なぜこんなに大量の登場人物が必要なのかよく分からない。基本的には犯人候補という位置づけなのだが、登場人物を効果的に書き分けているとはとても言えず、読んでいて単純に混乱し、そのうち登場人物を追いかけることすら面倒になってくる。こんなことなら名前ではなく「作家」とか「女優」と書いていてくれた方が、いちいち登場人物欄を見る必要が無くて楽であった。また、本作の趣向自体が「古き良き探偵小説」にSF的要素を持ち込んだというものらしいのだが、結局のところ古くさくて代わりばえのしない、なんとも緊張感の無い雰囲気が漂ってしまっている気がする。著者のコメントに「私が<本格>に必要と考えることを、可能な限り詰め込んだ」とあるということは、どうやら僕の読みたいものは「<本格>」なるものでは決してなさそうである。同時に、このようなコメントを書くと言うことは、この作品が、少なくとも高橋源一郎曰くの「小説」では無いのだなあと、単純に納得した。高橋源一郎についてはこの次に。