天冥の標 VI 宿怨 PART 2

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標6 宿怨 PART 2 (ハヤカワ文庫JA)

スカイシーでの脱走劇から3年後の西暦2502年、<救世群>議長の娘イサリとその妹ミヒルは<救世群>の権利拡大を訴えるため、国際会議に出席するべく開催地のセレスを訪れていた。そこで「外を見たい」とのミヒルの誘いを振り切れなかったイサリは、3年前のようにホテルを抜け出したものの、反政府勢力「ビーバー」に見つかり彼ら彼女らの拠点に捕らわれてしまう。「ビーバー」たちは、この国際会議に向けてテロ攻撃を計画し、その一環として彼女らを利用しようと試みたのだ。なんとか窮地を脱した彼女らだが、その後ロイズ非分極保険社団の先導する国際会議では<救世群>への監視の徹底など屈辱的な事項が次々と決議され、<救世群>たちは窮地に追い詰められることになる。しかしそのとき、<救世群>は<恋人たち>を通じ地球外生命体の<穏健な者(カルミアン)>たちと接触することによって、身体を頑強にする技術などロイズや他の国家をはるかに凌駕するテクノロジーを入手、独占していた。



第6巻「宿怨」第2部ということで、第1部から3年後の出来事を描く本書ですが、あっさり地球外生命体であるミスン族のミスミィのエピソードから始まりびっくりです。これまで地球外生命体といえば「ダダーのノルルスカイン」と「ミスチフ」の二者が争っていたはずなのに、いきなり3番目の存在が現れるのですから、これまた混乱するのですが、でもこの<穏健な者>たちもよく考えれば第1巻ですでに登場ずみなので、そう考えればそれほど驚くこともないのか。


そうは言っても、ここにきて突然物語の様相が転換したことは変わりがありません。これまで<救世群>という特異体が人類に及ぼす変化を軸にして進んできた物語が、地球外生命体三つどもえの乱闘戦に移行してしまい、人類はそのなかでうろたえ戸惑うあわれな被害者の位置に追いやられてしまった感があります。<救世群>も、そもそもは<ミスチフ>の放棄したプロジェクトの一部であり、その意味では地球外生命体の思惑の被害者ではあるのですが、本巻において突如出来したこの<穏健な者>たちとの共生関係のなかで、それまでの位置づけを根底から変化させ、ロイズのような<ミスチフ>の手足となってその存在を伝播するために働く人々と、ごくわずかの<ノルルスカイン>の意志を読み取り伝えようと努力する人々の両者に、ついに思い切った行動を取ることになります。


だからといって大味な戦争描写に徹することなく、しっかりと物語の中で極めて恣意的に選び抜かれた人々の姿を描き出すところは、相変わらずの本書の大きな魅力です。おそらく本書でもっとも魅力的な登場人物は、オロナ盆地で羊飼育営む<酸素いらず>の一族の娘で「羊がしゃべりかけてくる」と訴えるメララ・テルッセンですが、テルッセンといえば第5巻でタックを助けた羊飼いの老神父であり、<ノルルスカイン>が展開するためにいたずらをした羊の直系の子孫を飼育しているはずです。また、このばかげたはなしに耳を傾ける少年ジョージ・バンディは、同じく第5巻の主要登場人物であるザリーカやアニーの子孫であり、これまた懐かしい面子が活躍します。


しかし、そもそもこのシリーズを再読して記録をつけ始めたのは、本書を発売時に読んでさっぱり登場人物や内容を覚えておらず、内容がよくわからなくなってしまったからでした。次に新刊が出るときにはそのような思いをしないぞと心に決め読み直してきましたが、やってみて良かったなあ。そもそも大量の文字を読むせいか、短期記憶・長期記憶ともに優れない僕には、やはりこのような記録をつけながらの読書が向いているようです。さて、ようやく最新刊が読めるぞ。