北山猛邦:猫柳十一弦の失敗 探偵助手五箇条

おそらく東京のどこかに存在する、一般的には上品な学生が通うとされる大東亜帝国大学とは、日本で唯一、探偵助手を養成する探偵助手学部を持つ大学だった。その探偵助手学部二年生の君橋君人は、同級生の月々守とともにとてもたよりない名探偵で女性の猫柳十一弦先生のたった二人のゼミ生であり、以前凄惨な事件に巻き込まれた経験を持つ。この3人のうち主に君橋と猫柳先生が、禍々しい言い伝えを持つ山奥の村で連続殺人事件を未然に阻止せんと一生懸命がんばるはなし。


心優しく頼りない主人公を描かせれば右に出るものがいない北山氏による、とてつもなく頼りなく危なっかしい名探偵猫柳十一弦先生の活躍第2弾。第1弾を読んでとってもおもしろかったのだけれど、内容をまったく覚えていないのが残念です。読書の記録はこのようなときのために行っていたのだけど、まあそれはしょうがない。きっと書棚のどこかに第1弾があるはずなので、発掘して読み直してみよう。


北山氏の作風と言えば、どこか奇妙なのだけれど懐かしくもあるような世界の中で、ごりごりと異様な出来事がおこり、それを心優しい登場人物たちが解決してゆくイメージがあります。本作もそれに近いと思うのだけれど、猫柳先生のシリーズは横溝正史的な、古き良き大時代的推理小説を、北山氏なりに換骨奪胎し、その大げさな身振りをおもに猫柳先生のすっとぼけた性格と振る舞いでぼきぼき脱臼させる、そんな心地よさがあります(第1弾をよく覚えていないので、定かでは無い部分もあるのですが)。また本作の醍醐味は、猫柳先生が起こりうるであろう犯罪を未然に予見し、そしてその発動をいかに阻止するか、というところにあります。これは、でもよく考えてみると名探偵がいっさい事件を解決しない、ということになりかねない訳ですが、そのあたりを見事に物語として成立させる北山氏の優しい手法は、本来的に殺伐とした世界を浮かび上がらせる可能性のある推理小説を、また違った地平に着地させ、なんだかとても安心です。しかし、どこをどうひねったら、猫柳十一弦などというお名前を思いつくのか。