大森望編:NOVA3 書き下ろし日本SFコレクション

最近怒濤の勢いでアンソロジーを編集しつづける大森望氏が選んだ、若手からベテランまで、勢いの良い作家たちによるSF短編集の第3弾。西島大介氏のイラストがいちいちかわいい本シリーズ、今回は朝暮三文氏、とり・みき氏など、渋くてしぶーい人たちが目について手に取りましたが、一番面白かったのは長谷敏司氏の作品でした。


表紙で縦書きに列記された作家諸氏のお名前が、右から朝暮氏、東氏とならんでいたのでその通りになっているのかと思いましたが、いきなりとり・みき氏の「万物理論」という漫画だったので驚きました。そうか、表紙の作家の並び順はあいうえお順なのか。それはともかく、この「万物理論」、とり・みき氏の傑作連作「SF大将」の「特別編」とのことで、感慨深く懐かしく読ませて頂きました。内容はと言うと、「SF」の定義が定まったとの発表にまつわる一連の騒動を描いたものなのですが、いつもどおりきちんと無意味に混乱した内容で楽しかったです。いちいち「水伝」とか「ガンダム論争」とか、無駄にデティールが細かいのも相変わらず。「SF大将」、とり氏の作品の中でも「遠くへいきたい」とならんで大好きなので、嬉しい一作でした。


さて、しかし本アンソロジーの一番の収穫は、長谷敏司氏の「東山屋敷の人々」でした。これはある地方都市で財閥を形成する一族を描いた物語なのですが、主人公の父親は家族のしがらみを嫌って都会へ出てきてしまいます。そしてその一族は主人公からすれば大伯父頂点に君臨する男性によって支配されるのですが、彼が「抗老化処置」を行い「不老」化してしまったことで、一族の間になにかぎすぎすとした関係が発生します。その「不老」化した大伯父をある意味興味深く観察していた主人公は、ある日その大伯父から大学への進学費用の援助と引き替えに、自分の跡取りとなるよう依頼をうけ、戸惑いつつも取りあえず書生のような生活をはじめます。そんななか、突然失踪していた大伯父の弟が現れ、事態は混乱、一族は紛糾、当の弟は素知らぬ顔で酒を飲み、主人公とポーカーをし、一族のみんなと飲み歩きます。


長谷氏といえば「あなたのための物語」で、死を面前に控えた研究者の淡々とした生活を、これでもかというくらいにドラマティックに書き上げた作家として記憶に新しいのですが、やはりその筆力は冴え渡っているように思えます。本書は、ある意味ネガティブ版「サマー・ウォーズ」という雰囲気を漂わせるように思うのですが、「抗老化」というアイディアとは反対に、物語を支配するのはあくまで伝統的、かつ現実的な家族のしがらみなのです。この、極めて奇妙に思わせる状況が、むしろSF的アイディアになにか実感できてしまうような真実みを与えている様に思いますし、またそれはアイディアではなく著者の寡黙にしてよどみない筆の運びにも帰するように思えました。物語としては、なんだか笑えないようでいて笑うしかないような、なんとも言えない結末を迎えるのもとても楽しめました。

あと、お名前は書店の書棚で幾たびも拝見していたのだけれど、一冊も読んだことの無かった谷甲州氏の作品「メデューサ複合体」に出会えたことも、本書を読んでの収穫の一つでした。あー、こんなに静かで端正な物語を書く方なのかと、今更ながらに驚かされました。次は長編を読んでみよう、と思わせられるところに、このようなアンソロジーの意義を深く感じさせられます。しかし、面白かったなあ。要は宇宙を舞台とした工事現場の現場監督の話なのだけれど、なんだかゼネコンの現場監督を経験したことでもあるのでは、と思わされるようなしみじみとした雰囲気が、とても素敵な作品でした。