首藤瓜於:差し手の顔 脳男 2 上・下

指し手の顔(上) 脳男2 (講談社文庫)

指し手の顔(上) 脳男2 (講談社文庫)

指し手の顔(下) 脳男2 (講談社文庫)

指し手の顔(下) 脳男2 (講談社文庫)

勤務する病院に、精神科病棟退院後の長期的ケアを目的とする「第二外来」を創設した精神科医鷲谷真梨子は、その趣旨に賛同して多額の寄付をしたという謎めいた女性に邂逅する。一方で、有能ながら無愛想で攻撃的な刑事の茶屋は、コンベンションセンターでの無差別殺人事件を追う中で、新聞記者の失踪や動機のわからない無差別殺傷事件に出会い、ただならぬ状況に追い込まれる。そしてそれらの事件の背景に、以前警察をあざ笑うがごとくさまざまな騒動を引き起こし、現在逃亡中の「鈴木一郎」という、いまもって謎めきつつ超人的な能力を持つ男の影がちらつきはじめる。


前作「脳男」の続編で、登場人物もかなり重複するところがあるのですが、読み始めた時点ではさっぱり覚えていなくて多少とまどいました。でもまあ、本書で徐々に説明されてゆくので、最終的には気になりません。というか、「脳男」を読んでない人でも物語の世界を楽しめてしまい、なおかつ「脳男」読んで見たくなってしまうと言うところに、相変わらずの筆者の巧みさを感じさせられました。


内容はと言うと、なんだか血なまぐささが増量されたように感じます。まあよく人が殺されるし、殺され方も尋常ではありません。一方で、「鈴木一郎」という存在を頂点に成立する人間のこころのありように関する描写も、これもまたなかなか味が濃い。県警本部と所轄の軋轢や管理官の政治性、そしてそれらをぶちこわす茶屋の存在と茶屋を取り巻く奇妙な鑑識官などの存在も、つぶさに描かれているところが憎らしいというか、うまいのです。


相変わらずのスピード感あふれる筆致にどんどんと読む手は進み、気がついたら残り頁は僅少、ほんとうにこれで物語が収束するのかと思ったら見事な返し技を決められた、そんな心持ちにされる展開だったので、ちょっと狙い澄ますがあまりひねりが効き過ぎているような気もしましたが、全体としてはとても楽しく読み通せました。そして、相変わらず「脳男」が思い出せないところが、また心憎いのです。