藤崎慎吾:ストーンエイジKIDS 2035年の山賊

ストーンエイジKIDS―2035年の山賊 (光文社文庫)

ストーンエイジKIDS―2035年の山賊 (光文社文庫)

地球温暖化が劇的に進行し、巨大トカゲやニシキヘビが東京にも見られるようになった2035年、温暖化防止のために設置された巨大公園は半ばジャングルのような様相を呈していた。そこで狩猟生活を行いながら暮らすストリートチルドレン、自称「山賊」たちは、ある日巨大化したカラスのような怪物が人間たちを襲い来る場面に遭遇する。この事態に対処するため、「山賊」たちは以前知り合った超人的な元警官滝田の助けを借りながら、巨大カラスに反撃を試み始める。


巨大バイオ企業を親会社とする「4U」が展開するコンビニが警察業務を下請けするようになった近未来、前作ではその「コンビニコップ」であった滝田が子どもたちを守るための壮絶な闘いが描かれましたが、本作はその後日談として位置づけられています。世界観は前作を受け継ぎながらも、本作では子どもたちに焦点が当てられ、それぞれの生い立ちや家庭環境が語られてゆきます。これがまあ、なんとも異常で面白い。


例えば主人公として描かれる少年クシーは、子どもができずに亡くなった子どものためにその親が残されたES細胞から作り出した人間であり、自閉傾向が強いものの極めて高い知性を持ち、人形を介してしか会話のできないイータはおそらく両親が子どもの遺伝子を操作して作り出されたらしい。体表から燐光を発し離人傾向の強いミューは、これも親の気まぐれで遺伝子を改ざんされている。これら進んだ遺伝子技術の犠牲とも言える「山賊」たちが、その技術で様々な反社会的とも言える技術開発を進める大企業や、その進入を許した国家権力に、滝田や「オジイ」と呼ばれる体表で光合成を行う不思議な人物の助けを借りながら立ち向かってゆきます。


前作の「ストリートエイジCOP」では、おそらくオランウータンの遺伝子を改良して生み出された滝田が、自分の出自を探求する中で「山賊」たちと共闘してゆくなかで、巨大コングロマリットと超人的な能力を持つ滝田の闘いに焦点が置かれましたが、本作は上記のような事柄を描き出す中で、行き着くところまで言ってしまった遺伝子改良技術がもたらした鬼っ子たちの反乱が描き出されます。この割り切りの良い構成と、またある種の「救われない」展開が、本書を極めて通りよく活き活きとした物語に仕立て上げているように思います。


一方で、それとはあまり関係なく、「山賊」たちの生活の中で執拗に描き出される異常な生態系も、さすが藤崎氏と思わされる迫力があり楽しめます。物語は、このような2035年の異常な風景を描き出すためのおまけなのではと思わせるくらい、迫真に迫ったこれらの描写が、結局のところ物語の強度を極めて強いものにしている、そのようにも感じられました。


また、光合成で食事を行う「オジイ」、不穏な雰囲気と背景を感じさせる「李」なる人物、超人的な身体能力を誇る滝田など前作からの登場人物に加え、滝田と酷似した身体能力と社会的状況を持つ人物の登場、そしていまだ完全には説明されないある種のネットゲームなど、なんだかただならぬ様相を見せ始め錯綜した状況は、展開の素直さと響き合うようにして物語に多重性を与え、とても楽しめました。技術革新が異常に発達した近未来を描きながらディストピア的風景を描き出すという手法は僕には極めて新鮮であり、それができるのは藤崎氏ならではなのかなあと、強く思わされた作品でした。