藤崎慎吾:ストーンエイジCOP 顔を盗まれた少年

ストーンエイジCOP―顔を盗まれた少年 (光文社文庫)

ストーンエイジCOP―顔を盗まれた少年 (光文社文庫)

コンビニで簡単に美容整形が、それもゲームの登場人物とそっくりな容貌にできるようになった近未来、1人の少年がその整形手術を受け帰宅したところ、もとの自分と同じ顔をした少年がそこには暮らしていて、自分が本物だと主張する。その主張を信じ込んだ母親から放逐された少年は、公園での野宿生活をはじめるのだが、そこにはすでに野宿生活を送る子どもたちの集団が存在し、その集団を通じて大きな陰謀に少年は巻き込まれてゆく。


警察業務の一部、特に末端の巡回警備が民間に開放されたという設定の本書で、主人公はその業務を委託した会社でコンビニを中心として警察業務を行う「コンビニ警官」という立場にいます。ところがこの警官、超人的な身体的能力を持ち、見た目もごつくて恐ろしい。しかも、4年前に遭遇したという交通事故でそれまでの記憶をすべて失い、自分が誰かと言うことすらわかりません。この、大変困った状況にあるコンビニ警官の自分探しという軸を中心に、家を放逐された少年が遭遇する事件が展開してゆきます。


藤崎慎吾氏といえば、「ハイドゥナン」や「鯨の王」、「レフトアローン」など、多彩な生物学知見とクリアなSF的感覚という、どちらかといえばあまり相性がよくないというか、あまりこの二つをまぜあわせないよねと思わせる要素を絶妙にブレンドしながら、極めて奥深い物語を構築する、そんな印象のある作家です。それはとても素晴らしいのですが、時には信じられないくらいのゴールデンマリアージュを生み出すのだけれど、なにか登場人物の造形が平板にすぎるというか、物足りないものを感じてしまう、そんな思いも幾分感じさせられてきました。


しかし、本書は面白かった。なによりも、生物学的な蘊蓄がそれほど強調されず、物語の世界への没入が極めて容易なところが素晴らしい。そして、そこで描かれる登場人物たちは、適度に突き放された視点から、それでいて暖かく苦悩が描き出され、なんだかとても魅力的です。同時に、亜熱帯と化した日本の動植物に関する記述は、相変わらず意味を持たない記号の羅列にしか見えないのですが、それが物語を妨げることはなく、むしろ淡々とした語り口の中に物語が用意する不気味な世界を反映しているようで、これまた効果的な演出に感じられます。

解説によれば、これは2002年にノベルズで出版されたものを改訂したものとのこと。この続編の「ストーンエイジKIDS」を是非読んで見たいと思いジュンク堂に探しに行ったのですが、版元品切れとのこと。おって文庫化されるとのことですが、待ち遠しいなあ。