紺野キリフキ:ツクツク図書館

ツクツク図書館 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

ツクツク図書館 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

「つまらない本」しか所蔵しない「ツクツク図書館」、そんな図書館で「本を読む」だけの仕事の求人に応募してきたのは、着ぶくれた「女」。しかも、彼女には仕事に対する情熱がまったく感じられない。そんなことを漠然と考えていた館長は、一方で彼女が着任してから様々なことが起こりつつあることを発見する。


「つまらない本」のみで蔵書が構成される図書館を舞台にした、連作短編集のような物語です。そこには、つまらない本を探してくるプロフェッショナルの「運び屋」、本をもとの場所に戻す「戻し屋」(実は本当の戻し屋さんは高齢で休暇中で、現在は遠視の幼稚園児が勤める)、いかなる言語も読めてしまう「語学屋」など、よくわからないひとびとが勤めています。そして、そこで繰り広げられるエピソードも、これまたよくわからない。


「はじめまして、本棚荘」でも感じられたある種の不条理感は、本書でも健在というか、むしろ強い傾向が感じられました。「本棚荘」と同じく、本にまつわることどもを描いた本書は、しかし本の内容とはあまり関係の無いところで物語が進展します。というか、本当に物語が存在したのか、そしてなにが進展したのか、よくわからないのではありますが。


物語全体にただよう茫漠とした雰囲気は、「本棚荘」に通底するものがあります。しかし、「本棚荘」がそれでもある一定の物語性を獲得していたのに対し、本書はなにか中心的な存在というか、物語の在りかを示すポイントのようなものが見いだしづらい。読み終わってみれば、これはおそらく「女」または「図書館長」の物語だったような気もするのですが、他方女の飼う猫の話のような気もするし、きちんとしたひとにはおそらく存在しない「図書館」の不思議性を巡る物語だったようにも感じられます。


全体として、なにかもう一つ「本棚荘」のような確信犯的不条理感に乏しく、幾分散漫な印象があったことは否めません。しかしながら、相変わらずの不穏な雰囲気と文章の美しさであっというまに読み終えてしまい、とても楽しめたこともまた事実なのでした。