小此木潔:消費税をどうするか 再配分と負担の視点から

消費税をどうするか―再分配と負担の視点から (岩波新書)

消費税をどうするか―再分配と負担の視点から (岩波新書)

著者曰くの「折り重なる危機」に対し、その原因と克服策を俯瞰しながら、消費税を中心に再配分と負担のシステムについて議論したもの。


最近いろいろと経済関係の新書を読みあさる中で、民主党の管代表が消費税10%をぶち上げて参院選で勝利を収められなかったなど、消費税というものについてもなんだか興味が出てきました。そのためまず読んで見たのが本書ですが、議論としては国際比較などもふんだんに盛り込まれわかりやすいのですが、多少既視感が感じられる部分も多いことも事実です。


例えば日本の財政赤字とそれに対する「税制改革」の寄与、長期デフレの財政に対する負のインパクト、直接税から間接税へのシフトとその弊害など、どこかで見たような議論が展開されます。他方、そのような議論がわかりやすく整理され、具体的な数値と共に示されるところは、さすが現役のジャーナリストである筆者の力量かと思わされます。


しかし、肝心の消費税の議論はなんだか期待はずれでした。筆者はいみじくも指摘します。

社会保障は本来、弱者の支援が基本だ。社会保障にお金が必要だからという理由だけで、ただちに「財源は消費税しかない」というのは短絡的に過ぎる。むしろ福祉の強化を語るなら、そのための政策手段は「再配分の強化」が基本に据えられて当然である。とすると、福祉の財源には本来、逆進性の高い消費税ではなく、所得税のほうがふさわしいことになる。

ここまで言い切った上で、しかし所得税増税は「サラリーマン」からの批判が多く受け入れられないのではと述べた筆者は、以下のような提案を行います。

となると、やはり「折衷案」が有力な選択肢として浮上してくる。「毒」消し型の消費増税と、所得増税を組み合わせて実施する案だ。実際、これはバランスのとれた考え方として人々から支持されやすいだろう。

まあ、主旨は理解できるのですが、ここまで頑張って分析した結果が「バランス」ということばでまとめられるのには、強い違和感を感じさせられます。そもそも、筆者が規定する「サラリーマン」とは大企業につとめる高額所得の「サラリーマン」なのではないかなあ。だって、所得税減税と消費税増税(と法人税減税)をずっと主張してきたのは経団連ですよね。そこに配慮することが、「バランス」の取れた選択肢だとは、なんとも腑に落ちないものがあります。これが具体的・現実的な「政治」の判断における「バランス」ということならば、もちろん納得できるのですが、現役の朝日新聞東京本社論説副主幹が岩波新書で展開する議論としては、なんとも残念なものがあります。せっかくの分析と議論の展開があるのですから、非現実的でも理念的な「バランス」にのっとった主張を知りたかったなあ、と思ったのです。