バーナード・ベケット:創世の島

創世の島

創世の島

21世紀末、人類が破滅的な戦争で壊滅的なダメージを負い、強力な感染症に汚染された世界のなかで、外界と完全に隔離することで独自の文明を作り上げた人々がいた。本書は、その社会のなかで「アカデミー」と呼ばれる教育機関の口頭試問を受験する若い女性と試験官の間で交わされる会話という形式で、この奇妙な共同体の成り立ちが明らかにされてゆくというもの。


びっくりです。口頭試問による会話文によって展開するという物語の形式もさることながら、その内容、展開、そして結末のすべてが、なんというか、衝撃的なまでに美しい。


口頭試問は三人の試験官が1人の受験生に質問を浴びせかけるという形で進行します。この共同体の始祖となった人物を口頭試問の主題として選んだ主人公は、しかしその始祖が生まれることとなった世界、つまり現在の共同体以前に存在した統治機構、つまり戦争によって汚染された世界と自らを物理的に切り離し、きわめて差別的、なおかつ優生学的な階級制度や教育制度を持つという、なんだかとても不思議なものなのですが、口頭試問によって明らかになるその後の共同体の進化のありようは、さらに不思議なものがあります。


物語の内容はあまり言及する必要も無いと思うのでこれくらいとして、本書のもう一つの驚きと喜びは、この叙述スタイルにあるでしょう。口頭試問という形式ですべてを書き切った作者の構想力もさることながら、やはり物語が物語自身を発見してゆくような気にすらさせられたのは、やはり対話形式という古典的な形式の持つ、そもそもの力強さのようにも思います。


そこは著者も十分に自覚的なようで、舞台となる世界の前身となった共同体の創始者プラトン、その実質的な運営者はヘレナ、主人公の名前もギリシャ神話からとられるなど、もうこのレベルのディテールだけでも読んでいて楽しくてたまらない。しかも、文章は平易にして闊達、かといって上滑りすることもなく、ことばひとつひとつで世界を慎重に、なおかつ大胆に切り開いてゆきます。


ニュージーランドの中学の先生との作者、これまでにもいくつも著作を発表しているらしい。是非とも著者の手による他の作品を読んで見たい、と心から思わされた一冊でした。