J. R. R. マーティン:ハンターズ・ラン

ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)

ハンターズ・ラン (ハヤカワ文庫SF)

人類が宇宙に乗り出して一大帝国を築こうと思ったら、とっくにスーパー生命体に牛耳られて辺境の星の補給屋さんにさせられてしまった未来、乱暴な正確でトラブル続き、そのためある辺境の星に逃げてきた鉱山師は、飲み屋でのちょっとしたけんかでガニメデ人を殺害してしまい山中に逃亡、その結果異生命体を発見してしまう。異生命体にとらわれた男は、その異性体を見てしまい逃亡中というもう1人の人間を、異生命体の抑制下で追いかける羽目に陥るが、何かがおかしい。どうやら、追いかける対象の男は、自分自身のようなのだ。


マーティンだけではなく、ガードナー・ドゾワとダニエル・エイブラハムという人の合作、しかしやっぱりマーティン色は強烈です。不愉快な主人公は「タフの箱船」を、延々と続く密林の中での探索行は「フィーヴァードリームズ」を、全体的な大がかりな物語の作りは「氷と炎の歌」シリーズを思わせるところがありました。


しかし本作は不思議な作品で、最初はとらわれの身となった主人公が、警察と思われる男を逃げさせようと思いながら追いかける展開が続きます。そのうち追いかけている男が警察ではなくある意味自分の身内であることがわかり、その男に対する同情心はますます大きくなる。そして物語は予期せぬ展開を遂げてゆくのですが、結果として自分を捉えて犬のように使った異生命体に対しても、ある種の同情心を持つようになるのです。


また、男のバックグラウンドの設定もとても練り込まれています。初めはただの暴力的なならず者に思えた主人公は、だんだんと自分を見直さざるを得ない状況に追い込まれる中で、新たな、もしくは変容してゆく自分を発見してゆきます。その意味では、おっさんを主人公とした暑苦しいビルドゥングスロマンとも読めなくもありません。


でも一番面白かったのは、共著者の中で一番若いエイブラハムが、マーティンから合作を持ちかけられた場面かなあ。それは、訳者後書きの冒頭に描かれています。

本書誕生の経緯は作者たちが書いてくれているので、ここではその捕捉に努めよう。
2002年のある日、マーティンはエイブラハムをレストランに招いてこう切り出した。
「なあ、ダニエル、老練の肥満作家ふたりと、ひとつ共作をしてみる気はないか?」
これが3人体制による共作の発端だったそうである。

いいなあ、マーティン。