鈴木亘:年金は本当にもらえるのか?

年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)

年金は本当にもらえるのか? (ちくま新書)

「年金制度は崩壊する」など、最近年金を払うことに「勇気」が必要なほどネガティブな言説が多い年金制度について、現状分析と今後のあり方を論じた一冊。


最近読み散らかした経済系新書で、ほぼ血祭り状態に上げられていた日銀ですが、日銀出身で現在学習院大学教授の著者による本書、一問一答形式でとても読みやすい。しかも表現やデータ提示形式も誠実で、とてもまっとうに思えます。あれ?


本書の議論は、まとめて言えば年金制度は崩壊はしないがこのままでは給付と負担の割合が著しく不公平になります。その元凶として、著者は年金制度が設立当初の「積立方式」ではなく、「賦課方式」で運営されていること、そして生産人口が今後著しく減少することを挙げます。また、厚生労働省の試算では充分な給付が約束されている世代は、実は過剰な負担過多になる可能性が高いことを、一つづつ丁寧に解説してゆきます。


ではどうすればよいのか。著者は基本的には積立方式へ移行すること、その財源としては年金取得者より相続税として徴収すること、また高額所得高齢者の固定資産税の一部を年金目的税にすることを提案します。この、極めてラディカルで批判が多いと思われる議論が僕にとって一定以上の説得力があるのが、著者の前提が徹底して世代間の公平性にあるからです。この部分って、けっこう情緒的な議論に流れがちだと思うのですが、でもほっとくと本当に危険な事態が待ち受けていると思うんだよなあ。また、高齢化・少子化が進むと言うことは、今までにない社会保障的コストが必要とされると言うことであり、広井良典氏的な議論をすれば、企業が担っていた社会保障的なすでに破綻しています。そんなときに、いったいだれが若年層・高齢者層の社会保障コストを引き受けることができるのか。本書は、僕の読み違いかもしれませんが、そのような現状に大きな警鐘を鳴らしているように思えました。


しかし、ここでも厚生労働省はずいぶんとやっつけられています。確かに、本書で厚生労働省が作成したとされる予測値の甘さには、経済に詳しくない僕でもいかがなものかと思ってしまう。でも、これはむしろ逆に、厚生労働省がこのような数字を出さざるを得ない何かの理由があると考えるべきではないかな。国民に選挙によって選ばれた政治家が描き出した政策を満足させることが、ある意味義務な訳ですからね。厚生労働省の残業が、すべての省庁でもっとも多いと言われるのも、なんだか理解できてしまうような気がする。