藻谷浩介:デフレの正体 経済は「人口の波」で動く

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

なぜ景気が良くならないのか、もしくはこれまでの「長期の好景気」でも暮らし向きが良くなったと感じられないのか、そして今後どのような展望が待ち受けているのか、「生産人口の減少」という視点から説明したもの。


タイトルの「デフレの正体」はいささかミスリーディングな気がします。むしろ副題の方が本書の内容を良く表しているのですが、それにしてもこの手の経済解説本の中では、出色のわかりやすさと説得力を感じさせました。著者は、まず世間、または「マクロ経済学っぽい観点」で言うところの「常識」に、片っ端から疑問を呈してゆきます。


それは例えば「21世紀に入ったことから日本の貿易黒字は減少基調にある」ということであったり、「中国や韓国、台湾に貿易で負けつつある」ことであったり、「戦後最長の好景気では絶好調だった自動車販売は、2007年のガソリン高騰で下がりはじめた」ということであったり、「大都市圏より地方都市が衰退し地域間格差が生じている」ことであったりします。著者は、これらすべてのことが妥当でないことを、極めて明快なデータを用いながら説明してゆきます。


ここまでの前置きがちょっと長いかなあ、と感じはしたものの、この後の議論が鮮烈です。著者の主張は単純で、現在日本の景気が良くない、または今後もこれまでと同じ対策を採り続ければ良くならないのは、ひとえに生産人口が減少したことにある、と主張します。つまり、生産人口、特に若年層が減ることによって、当然自動車や不動産などの消費は落ち込みます。では日本の富はどこにあるのか。それは、国債を大量に持つ高齢富裕層です。この人々は、お金を使いません。なぜなら、すでに自動車はあるし、不動産もある。なにより、将来医療福祉サービスが必要になったときのためのリスクにお金を貯めているからです。


でも相続されるのでは、という議論は、著者は高齢化によって相続先の息子世代も60代であることを指摘します。ここにきて、上記とまったく同じサイクルが発生し、お金は循環しません。つまり、内需は拡大しません。そのため、僕が今まで読んできた経済書でよく書かれる「日銀が金融緩和をして貨幣供給を増やせば物価は上がる」という議論も成立しません。ここでも著者は強烈にその根拠を指摘します。

日本が実質的なゼロ金利状態になってから十数年、景気の悪かった時期はともかく「戦後最長の好景気」だった02ー07年にも、その中でも個人所得の大幅な増加が起きた04ー07年においてさえ、一向にインフレ傾向にならなかったことを、どうお考えなのでしょうか。その理由が、所得が高齢者の貯蓄に回ってしまったことと、生産年齢人口減少→構造的な供給過剰にあることは、すでに延々と説明してきた通りです。


でも、結局僕が本書に一番共感した理由は、ではどうすればよいかという処方箋にあるかも知れません。著者は、この状況を打開するための方策として、「高齢富裕層から若者への所得移転」「女性の就労と経営参加を当たり前に」「労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受入」の三点を挙げます。これ以外にも、ラディカルな提案が成されるのですが、特にこの三点には説得力を感じました。特に一番目の「高齢富裕層から若者への所得移転」には、大賛成です。きちんと若年労働者の給与を上げてくれれば、きっと自動車買いますよ。家でまったり飲むんじゃなくて、ちゃんと外で飲みますよ。そして内需拡大に貢献しますよ。ということよりは、自分や親しい友人たちの給与が上がって、働く時間が減って、人間らしい暮らしができるようになるといいなー、とおもうからなんですけどね。