ディーン・クーンツ:オッド・トーマスの受難

オッド・トーマスの受難 (ハヤカワ文庫 NV )

オッド・トーマスの受難 (ハヤカワ文庫 NV )

何の因果か、生まれつき死者が見えてしまうという特殊能力を持ち合わせてしまった主人公の青年トーマスは、ある日親友の父親の「死者」に自宅で遭遇してしまう。慌てて彼の家に駆けつけたトーマスは、その父親の惨殺死体と、もぬけの殻となった親友のベッドを発見する。生まれつき骨が脆いという重い障害を持つ彼の親友は、殺人者に拉致されたらしい。そして否応なく、トーマスは死者の声に導かれながら親友を探すはめになる。


ディーン・クーンツという作家はとても有名なことは知っていましたが、いままで特に読むことなく過ごしてきました。ところが本作の紹介文の内容がなにかものすごい。たまらず手に取ったのですが、これがとても良い。さすが有名作家です。



ざっくり本作の内容をまとめていえば、特殊な能力を忌まわしく思いながらも平凡な人生を希求する主人公と、その特殊な能力を悪用しようと試みる変態との闘いという感じで、ともすれば主人公にやる気のないゴーストバスターズみたいにも思え、そしてそれはそれでとても面白いような気もしますが、本作の魅力は当然ながらまるで関係無いところにあります。


とにかく主人公のシニカルにすぎる諧謔的な笑いのセンスが素晴らしい。また、中盤に主人公の友人である著名で超肥満の小説家とのやり取りというエピソードが差し挟まれるのですが、これがとにかく良いのです。テンポ良く進む会話の一つ一つが、とても青年とは思えない老成したことばと、とても著名作家とは思えない瑞々しいことばで構成され、しかも全体としてなにか清々しい感動を感じさせます。ここが、本作のもっとも素敵なエピソードだったように思います。


物語の終盤は意外にもアクション的要素が強くなり、収束に向かって多少急ぎ足かな、と思わせるところも無いではありませんが、しかし最後のカタルシスは、あざといなあと感じさせつつも、やっぱりぐっと来てしまいました。なんだか全体的に不思議な物語でしたが、面白かったなあ。