中野雅至:公務員の「壁」 官民合流で役所はここまで変わる!

公務員の「壁」 ~官民合流で役所はここまで変わる! (新書y)

公務員の「壁」 ~官民合流で役所はここまで変わる! (新書y)

労働省からアメリカ留学などを経て、現在は兵庫県立大学院准教授を務める著者の、実体験をもとにした公務員生活の実態と、バッシングされる理由を解説し、また公務員制度改革の歴史と目的を説明しつつ、今後の公務員のあるべき姿というか、こうなってゆくのではといったところを極めてリアルに語ったもの。


内容よりもさきに本書にはいくつか素晴らしいところがあって、まず一つは自身の経験をもとに具体的な議論を展開するところ、またその具体的な議論を、いわゆる世間の「常識的な」議論とつきあわせながらデータ分析を行うこと、加えて、それぞれの章で設定される問いが極めて的確に思えるところにあります。これだけで、本書に書いてあることは信用してしまいたくなる。


内容はと言うと、これも結構面白い。タイトルからは想像しづらいのですが、本書はいわゆる「公務員」がほんとうはどのような仕事を、どのように思いながら行っているのか、当事者の視線から語ったもののように思えました。しかも、その当事者性は国家公務員から地方公務員、その中でも「企画立案部門」と「執行部門」がありますよというように、具体的でわかりやすい記述が見られます。


その中で、公務員にまつわる問題はいかなるものか、本書は整理してゆきます。それは、例えば地方公務員の給与の適正さに関わる問題であったり、仕事の特殊性や閉鎖性に関わる問題であったり、天下りの問題であったりします。でも、基本的に著者の立場は「公務員」にまつわる言説の実態の無さと、そこからもう一度本質を眺めてゆくことにあるので、非常に「公務員」寄りのものと言えるでしょう。でも、僕は結構そこに共感しました。


その典型的な記述が、「公務員をコテンパンにするほど、民間企業は正しいのか?」と題された章にあるように思えました。ここからは著者の議論とは関係ないのですが、僕が違和感を持つことに、「民間企業では血を流すような努力をしているのに、公務員はなにもしてないじゃないか」というものがあります。でも、それって本当ですか?意外と、中堅から高齢の社員でまったく仕事をしていない人がいたり、無駄な会議を繰り返していたり、コスト管理も適当だったりしません?ようは、役所も企業も同じ組織体である以上、ある程度共通項は存在するし、自分のところの現状を無視して「公務員」を叩くことに、なにか差別的なまなざしを感じてしまうのです。


当然これは「公務員」に対する議論だけではなくて、例えば「生活保護受給者」であったり「障害者」であったり、または「若者」であったりするわけです。全然関係ありませんが、「近頃の若者はコミュニケーション能力が低い」などと平気で言う人が居ますが、どこに根拠があるんですかね。コミュニケーション能力の低い中高年齢者も、嫌と言うほど居ると思うのですが。まあ、こんなことを考えさせられるくらい、本書にはいろいろ考えさせられました。つまり、とても良い本だと思うのです。