ポール・メルコ:天空のリング

天空のリング (ハヤカワ文庫SF)

天空のリング (ハヤカワ文庫SF)

なんだかすんごい未来、いわゆる独立して生きる人間は社会から疎外され、3名から4名の集団がお互いのフェロモンの分泌によって意思を疎通させることで一つの統合人格を作りだし、社会の主流派となっていた。そんななか、5名で1人の統合人格を作り出す男女が宇宙船のパイロットたるべく地球から宇宙へ送り込まれるのだが、なぜかそこで命を狙われることになり、地球に戻ってきて大冒険をするはなし。


明るく楽しめるSFでした。僕、こういうの好きです。一時期極めて自己言及性が強いというか、新しさを追求するあまりよくわからなくなってしまった物語が流行したように思うのですが、こういう古くさい物語は、やはりそれなりの文法と構築を要求するためか、とても読みやすくわかりやすい。読書をするうえで一番の苦痛が、自分が物語を楽しんでいるのではなく、苦行のように頑張らなくてはいけない時なのですが、そういう危うさのまったくない本書はとても安心します。


物語もよく練り込まれているように思います。数名で一つの人格を保ち、それぞれが部分としての自律性を持つという設定は、なにかコニー・ウィリス的な刺激を感じさせます。また、書き始めの雰囲気はビジョルドスペースオペラみたいなのに、あっというまにダン・シモンズというか、もっと古くはオールディスを感じさせもするディストピアの冒険譚になるところなど、予想もできずにびっくりです。


とまあ、とても楽しめはしたのですが、最近「インセプション」を見たせいか、このような大風呂敷の広げ方に少し食傷気味なところも感じてしまいました。主人公たちはいろいろな苦難を経験し、そしてある程度の犠牲を払いながら乗り越えてゆく、その結果としてファンファーレ鳴り響くカタルシスが用意されているわけです。でも、そんなに苦労しなくてもいいんじゃないかなあ。なんだか、ここまで物語が盛り上がる必要を感じないんですよね。アメリカ人らしいと言えばアメリカ人らしい割り切り方だし、面白かったことは間違いないのですが。いまいち自分でも、この違和感がよくわかりません。