カミラ・レックバリ:説教師 エリカ&パトリック事件簿

説教師 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

説教師 エリカ&パトリック事件簿 (集英社文庫)

スウェーデンの観光地フィエルバッカの警察に勤めるパトリックは、妻のエリカが妊娠後期で出産間近ななか、突然ある洞窟で女性の死体が発見され、しかもその下には白骨化された2体のまで見つかってしまうと言う大事件を担当する羽目になる。その中で、「説教師」と呼ばれた宗教的な人物とその子どもたちにまつわる数々のエピソードが明らかになり、ただでさえ大変なのに、上司は無能で同僚は気むずかしく、おまけにつぎつぎと迷惑な知り合いたちがエリカとパトリックの家で休暇を過ごそうとやってきてしまう。


解説にも丁寧に述べられているとおり、ヘニング・マンケルといいこのカミラ・レックバリといい、最近のスウェーデン推理小説には、いままで紹介されてこなかったのか、それとも突然スウェーデン推理小説作家が羽ばたきだしたのか、よくわかりませんがとにかく目を見開かれるものがあります。本作も、マンケルのあの陰鬱とした雰囲気を感じさせつつ、ほとんどサディスティックなまでにスラップスティックな展開が、妙に物語を明るく雰囲気づけていて興味深い。


おそらくスウェーデンのお国柄なのでしょうが、登場人物たちはどこかへそ曲がりで難しく、加えて何かしらの人間関係的問題を抱えています。そんななか発生する事件はどう考えても陰惨なものなのですが、そこをそう感じさせないところは、おそらく著者の意図するところではなくて、綿密に描きこまれた日常の刎頸が、日本で生きる僕の目にとても新鮮に映るからのように思います。


例えば主人公の刑事は、大事件に頭を抱えつつも午後四時には帰宅してしまったり、おそらく女性の就業率が高いためか登場人物の半分は女性、そしてそこで行われる会話のひとつひとつに、登場人物たちは互いのプライヴェートに立ち入らないよう気を遣います。かと思うと妊娠後期で歩くことさえ大変なカレンのもとには次々にやっかいな招かれざる客たちが到来し、きわめて自己中心的な教育理論で子どもを甘やかせたあげくカレンを激怒させたり、まったくひとの異を考えず自分の専門分野のことを延々と語りながら飲み物を要求するパトリックの「旧友」など、物語の本筋と関係ない登場人物の頻出は、正直言って誰が誰やらわかりにくいことこの上ないのですが、かといって物語にのめり込めないわけではまったくなく、むしろどんどんと物語の世界に入り込まされてしまいます。


やっぱり本書の一番の面白いところは、この過剰に書き込まれた記述から見えるスウェーデンという国の気質というか、空気みたいなものにあるような気がします。集英社文庫では同じシリーズの「氷姫」が出版済みとのことなので、明日の打ち合わせの帰りにジュンク堂で探してみよっと。